現在、金融業は大きな変革の時期を迎えている。その要因としては、(1)金融
制度改革による業務・価格・商品に関する規制の抜本的自由化、(2)テクノロ
ジ−の進歩、(3)グロ−バル化があげられる。本稿では、第1部でネットワ−
ク化によって今後成長するであろう「金融サ−ビス産業」の姿がどのようにな
るのかを関連産業の現状比較によって検討した。第2部では、やや技術的な問
題ではあるが、ネットワ−クによる金融取引が拡大する上での基礎条件である
認証業務のあり方を検討した。
上記の諸要因によって、近年、他産業が金
融業へ進出することが可能になりつつあり、その結果、金融業とその他産業と
の境界があいまい化し、金融サービス産業ともいうべき分野が新たにが形成さ
れつつある。金融業に参入しやすい産業としては、電気通信産業、電気機器産
業、ソフトウェア産業、流通業、商社があげられる。なぜならば、これらの産
業は金融業と同じくネットワーク産業という性質を持つからである。これらの
産業は、既存のネットワークとその関連ノウハウを生かして、既に金融サービ
スを提供していたり、これからサービスを提供することができるポテンシャル
を持っている。今後、他産業が金融業に進出するに伴って各種金融業務の競争
も激化するため、金融機関の形態も例えばブティック型、デパート型などのよ
うに多様化する可能性が大きい。また、金融業とその他産業という区別はさし
て意味を持たなくなり、他産業から金融関連業務への参入と新たな金融サ−ビ
スの創造により、金融サ−ビス産業が形成されていくことになろう。そしてそ
の周辺には、エレクトロニックコマ−スのようなグレイゾ−ンが広がっていく
ものと考えらる。これにより消費者は、より幅広い選択肢の中から便利で安価
な商取引および金融の両サ−ビスを得ることができるようになろう。金融サ−
ビス産業を革新性に富んだ、消費者にとって望ましいものにするためには、新
しい金融システムに対応したル−ルをはやく設ける必要がある。その場合のル
−ルとしては、競争を促進すること、そして責任の所在を明確に示すことを中
心としたル−ルが望ましい。
情報通信技術の発達とネットワーク化に伴い、
ここ数年、コンピューター・ネットワーク上で情報を電子的に交換することに
よって商品等の発注や決済を行う電子商取引 (Electronic Commerce:EC) が
活発化してきており、今後こうした取引はますます増加していくものとみられ
る。電子商取引は非対面取引であり、かつインターネットなどのオープン・ネッ
トワークを利用するため、(1)データの盗聴、(2)改竄、(3)取引の当事者によ
る送受信の否認、(4)第三者による「なりすまし」等のリスクがある。こうし
た問題に対処するため、これまでに「共通鍵暗号」や「公開鍵暗号」などの高
度な暗号技術を活用した様々な安全対策の仕組みが開発・考案されている。こ
うした技術を用いた対応方法としてまず考えられるのは、送信するデータその
ものを暗号化することによって安全を確保する方法である。この方法を用いる
ことによって第三者から通信データを秘匿することが可能になる。ただしその
場合、送信されるデータやデータの送受信者についての真正性が確認されなけ
れば、万全とはいえない。このため、データの「認証」(Certification)や本
人の「認証」(Authentication)が必要になってくる。これを可能にしたのが公
開鍵暗号を利用した「デジタル署名」という技術である。この際、入手した公
開鍵自体が本人のものであることを証明できる機関が必要であり、これを「認
証局」(Certification Authority:CA) という。電子決済の有力な方法として
普及の兆しがある「クレジットカードを応用した電子決済」の一つ、SET
(Secure Electronic Transaction) においても認証局は非常に重要である。こ
のため、その必要性を見越して日本国内でも米系企業による認証局の設立が相
次いでおり、またこれに対抗して国内独自の認証局を設立しようとする動きも
みられる。将来的には様々な用途にあわせた認証局が設立され、競争を行なっ
ていくことが望ましい。また、電子的な認証は高度な暗号技術の上に立脚した
ものではあるが、それを補完する「デジタル署名法」などの法制度の整備・拡
充が今後必要になってくるだろう。
キ−ワ−ド:金融制度改革、テクノロジ−の進歩、ネットワ−ク産業、 金融サ−ビス産業、電子商取引、本人認証、暗号技術、 デジタル署名、認証局