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ネットワーク化と金融サービス産業の形成


鷹岡澄子・堤千絵

総合政策学部4年
1997年度 春学期
岡部研究会レポート
(1997年9月30日改訂)

本論文作成にあたっては、まず丁寧で懇切なご指導をして下さった岡部光明教授と 岡部研究会のメンバーに感謝したい。さらに、 鷹岡が執筆した本論文第1部について は、電話で質問に答えて下さったセブンイレブン本社広報部の方に心よりお礼を 申し上げたい。






概要

現在、金融業は大きな変革の時期を迎えている。その要因としては、(1)金融 制度改革による業務・価格・商品に関する規制の抜本的自由化、(2)テクノロジー の進歩、(3)グローバル化があげられる。本稿では、第1部でネットワーク化によって 今後成長するであろう「金融サービス産業」の姿がどのようになるのかを関連産業 の現状比較によって検討した。第2部では、やや技術的な問題ではあるが、ネットワ ークによる金融取引が拡大する上での基礎条件である認証業務のあり方を検討した。
上記の諸要因によって、近年、他産業が金融業へ進出することが可能になりつつあり、 その結果、金融業とその他産業との境界があいまい化し、金融サービス産業ともいう べき分野が新たに形成されつつある。金融業に参入しやすい産業としては、電気 通信産業、電気機器産業、ソフトウェア産業、流通業、商社があげられる。なぜなら ば、これらの産業は金融業と同じくネットワーク産業という性質を持つからである。 これらの産業は、既存のネットワークとその関連ノウハウを生かして、既に金融 サービスを提供していたり、これからサービスを提供することができるポテンシャル を持っている。今後、他産業が金融業に進出するに伴って各種金融業務の競争 も激化するため、金融機関の形態も例えばブティック型、デパート型などのように 多様化する可能性が大きい。また、金融業とその他産業という区別はさして意味を 持たなくなり、他産業から金融関連業務への参入と新たな金融サービスの創造に より、金融サービス産業が形成されていくことになろう。そしてその周辺には、 エレクトロニックコマースのようなグレイゾーンが広がっていくものと考えられる。 これにより消費者は、より幅広い選択肢の中から便利で安価な商取引および金融 の両サービスを得ることができるようになろう。金融サービス産業を革新性に富んだ、 消費者にとって望ましいものにするためには、新しい金融システムに対応したルール をはやく設ける必要がある。その場合のルールとしては、競争を促進すること、 そして責任の所在を明確に示すことを中心としてルールが望ましい。
情報通新技術の発達とネットワーク化に伴い、ここ数年、コンピュータ・ネット ワーク上で情報を電子的に交換することによって商品等の発注や決済を行なう電子 商取引(Electronic Commerce:EC)が活発化してきており、今後こうした取引はます ます増加していくものとみられる。電子商取引は非対面取引であり、かつインター ネットなどのオープン・ネットワークを利用するため、(1)データの盗聴、(2)改竄、 (3)取引の当事者による送受信の否認、(4)第三者による「なりすまし」等のリスク がある。こうした問題に対処するため、これまでに「共通鍵暗号」や「公開鍵暗号」 などの高度な暗号技術を活用した様々な安全対策の仕組みが開発・考案されている。 こうした技術を用いた対応方法としてまず考えられるのは、送信するデータその ものを暗号化することによって安全を確保する方法である、この方法を用いることに よって第三者から通信データを秘匿することが可能になる。ただしその場合、 送信されるデータやデータの送受信者についての真正性が確認されなければ、 万全とはいえない。このため、データの「認証」(Certification)や本人の「認証」 (Authentication)が必要になってくる。これを可能にしたのが公開鍵暗号を利用 した「デジタル署名」という技術である。この際、入手した公開鍵自体が本人の ものであることを証明できる機関が必要であり、これを「認証局」(Certification Au thority :CA)という。電子決済の有力な方法としての普及の兆しがある「クレジット カードを応用した電子決済」の一つ、SET(Secure Electronic Transaction)に おいても認証局は非常に重要である。このため、その必要性を見越して日本国内で も米系企業による認証局の設立が相次いでおり、またこれに対抗して国内独自の 認証局を設立しようとする動きもみられる。将来的には様々な用途にあわせた 認証局が設立され、競争を行なっていくことが望ましい。また、電子的な認証は 高度な暗号技術の上に立脚したものではあるが、それを補完する「デジタル署名法」 などの法制度の整備・拡充が今後必要になってくるだろう。

キーワード:金融制度改革、テクノロジーの進歩、ネットワーク産業、
            金融サービス産業、電子商取引、本人認証、暗号技術、
            デジタル署名、認証局