金融業という場合、一体何をさすのであろうか。ここでは現在の金融業の基本的な
機能としくみについて説明したい。ここで説明する金融業の
内容は現在すでに変わりつつあり、近い将来においては、本稿が詳細に論じるように
金融制度改革などによ
って抜本的に変化する可能性が大きい。だが、ここでは従来金融業がさしていたものに
ついて制度的な側面から簡単にみていきたい。
そもそも金融とは何であろうか。金融とは狭義には、企業に代表される資金不足主
体(投資超過主体)が、その将来所得を支払い原資として、家計等の資金余剰主体(
貯蓄超過主体)から現時点での購買力を意味する資金を借り入れること、あるいは株式
の発行により資金を調達することをいう。つまり、金融の最も重要な機能の一つは、黒字主体から赤字主体へ資金を円滑に
移転することである
。そして、金融取り引き
の円滑化に寄与しているのが専門的仲介業者である金融機関である。
金融取り引きの専門的仲介業者は、その資金仲介技術を基準として、(1)銀行、保険
会社等からなる金融仲介機関と(2)証券業者に大別される。そしてまた、金融仲介機関
を経由する資金の流れを「間接金融」、証券業者経由のそれを「直接金融」と呼ぶこと
が多い。日本の場合、銀行法などに基づき、大蔵大臣から営業免許を取得した株式会社
組織の預金取扱い機関のことを銀行という。金融
の業務ごとに日本では、金融機関の業務範囲を定める業務分野規制が存在した。1つ
は長短金融の分離で、2つめは銀行・信託の分離で、3つめは銀行・証券の分離であ
る
。
長短金融の分離とは、長期と短期の金融業務をそれぞれ別個の金融機関に行わせると
いうものであり、(1)専門化の利益を生かして資金の効率的かつ円滑な供給を図ること、
(2)普通銀行などによる資金の運用・調達面での期間対応の確保を通じて預金者の保護を
図ることなどをその狙いとしている。長短金融の分離は銀行預金の預入期間に対する
規制を通じてその実効性が確保されてきたが、普通銀行等による資金の運用については
何ら制限が設けられていなかった。その結果、運用面においては普通銀行などの長期
貸出比率の上昇を通じて長期金融機関との同質化が進む一方、1994年10月からは普通
銀行による期間5年の中長期預金の受け入れが可能となったことから、その時点で長
短金融の垣根は実質的には撤廃されたといえよう。
銀行・信託の分離とは、原則としてひとつの銀行が銀行・信託両業務を兼営すること
を禁止するとともに、信託業務に従事しうる金融機関の範囲を限定するものである。
信託業務に関しては、信託銀行が受託できる財産は、金銭と金銭以外の有価証券や土地
などがある。金銭の受託には金銭信託(合同運用指定信託)、その一種である貸付信
託、および特定金銭信託、年金信託などがある。信託銀行が貨幣を集めるために発行
する金銭信託や貸付信託の信託証書が間接証券であり、これらは銀行の預金証書に相
当する。信託契約においては、最終的貸手は貨幣と交換に信託証書を購入し、信託銀行
はそれによって集めた貨幣を企業などに貸し付けたり(信託銀行による借入証書の
購入)、企業などが発行する債券や株式などの本源的証券を購入する。これにより、
貨幣が最終的借り手に流れる。
銀行・証券の分離とは、銀行による証券業務の兼営を禁止する措置のことをいう。
この分離原則は、戦後の金融制度改革においてアメリカのグラス・スティ−ガル法を
取り入れるかたちで導入され、証券取引法第65条により投資目的や信託契約に基づく
場合などを除き、銀行等が証券業務を行うことはリスクによって決済手段を危機に
おとしいれないようにとの経済的理由から禁止されている。証券会社の業務は
売買関係業務である(1)自己売買業務(ディ−ラ−業務)および(2)委託売買業務(ブロ−カ−業務)
と、発行関係業務である(3)引
受け業務(アンダ−ライタ−業務)
および(4)売りさばき
業務(セリング業務)
とに分けられる。
このように従来の金融業は業務規制によって分野ごとに相互参入が禁止されていた。
また、金融業は普通の産業とは明確に区別されており、他産業の金融業への参入が不
可能であった。金融業が普通の産業ではないと、他産業との違いのため規制を設ける
にはそれだけの理由があった。なぜなら金融業には公共性があるからである。例えば
銀行業について考えてみる。銀行の預金の受け入れは、不特定多数の国民資産の預託
を受けるもので、国民に重要な貯蓄手段を提供しており、さらに、預金により国民の
余剰資金が退蔵されることなく、資金の需要者と供給者との間の円滑かつ効率的な
資金移動を可能としている。また、銀行は貸出業務により、わが国の経済主体に対して
重要な資金の提供を行っている。この貸出業務によって供給される資金の量と質は、
生産及び消費などの規模と方向を決定する根本要因となる。さらに、銀行は為替業務を
行うことにより、効率的な資金移動を可能としている。最後に、銀行は中央銀行であ
る日本銀行の経済の安定化をはかる金融政策の効果波及媒介としての重要な役割を
担っています。
これらのことから、銀行業には公共性があるといわれている。
こうした従来の金融業は大きく変化することになる。それをもたらす要因を次に
みる。