現在、金融業は大きな変革の時期を迎えている。日本版ビッグバン(金融制度改革)
関連を含めると、連日金融関連の記事が新聞・雑誌の紙面をにぎわしている。ここ数年
で目覚ましい発展と社会への浸透をとげるテクノロジ−や金融制度改革による規制の
撤廃など、金融業の変革はさまざまな要因によっておこっている。
今後金融業は、こうした変革の結果として従来の金融業とは様相を異にしたものと
なり、金融サ−ビス産業という新しい産業の領域が他産業もまきこんだ形で形成され
ていくと思われる。それは、テクノロジ−の発達や規制撤廃やニ−ズ
の変化によって起こってくる新たなサ−ビスの需要が増加する一方、これに対して
供給も増加するために、今までは金融業の領域だった
業務を他産業がとりおこなうことが可能になるからである。供給面では、金融サ−ビス
自体についてもいままでになかったサ−ビスがあらたにできることから、金融サ−ビ
スといわれる領域自体が広がりをみせることになると思われる。そのため
、Electronic commerce(電子商取引)に関連した領域などのように、直接金融サ−ビ
スをさすものではないが、金融サ−ビスの周辺領域でありグレイゾ−ンも広がること
になる。こうした方向は認識されているが、網羅的な研究はまだないためこの研究を
行うことに意味があると思われる。
以下第1部では、現在どのようなかたちで金融サ−ビス産業が形成されつつある
のかを見ていきたい。金融サ−ビス産業では現在においても、金融機関だけでなく他
産業も金融サ−ビスを提供しており、今後ますます他産業の割合が増えていくと思われ
る。本稿では、第4節他産業の進出でどのような産業がどのような金融サ−ビスを提供
しているかということをみていく。そして、最後の第5節で金融システムへの提言を
おこないたい。
なお、本稿では金融業の中でも郵便貯金など公的金融はとりたてては扱わない。
郵便貯金は個人
資産において占める割合が大きく、けして資産の側面からみたときに無視できる存在
ではない。しかし、郵便貯金は民間企業によって提供されているサ−ビスではないこ
と、他の金融サ−ビスと比べた時の特異性からかんがみて本稿で取り扱うには適当で
はないと判断した。また、本稿では金融制度改革や各産業についてなど非常にたくさ
んの論点を持つ分野を金融サ−ビス産業の形成という側面からのみ取り上げたため、
本稿ではとりあげなかった論点がたくさんある。例えば、金融業と他産業の規制のあり
方、今後の金融業の経営戦略、技術的な細かい点などである。それらは今後の研究課
題である。