1980年以降わが国の銀行による国際業務は急速な勢いで進展していった。この
背景としては、以下の点が2つあげられる。第1に、日本経済の発展・成長とともに
日本の銀行の経営基盤がより堅固なものとなり、国際業務遂行上必要なリスク負担能
力を兼ね備えるようになった一方で、国際金融市場においても80年前後を境として
次第に高い評価をえるようになり、そうしたなかで取引上の地歩を固めてきたことが
指摘できる。第2には、80年12月の改正外為法施行に伴い資本取引が自由化され
るなど、制度面での制約が大幅に緩和されたという事情がある。
金融制度改革と一体となっているのが、5月に成立した改正外為法である。改正の
ポイントは大きく分けると、1つは投資や決済というマネ−取引の自由化であり、もう
1つが外国為替業務という業の自由化である。マネ−取引の自由化では、(1)居住者間
外貨決済の自由化、(2)ネッティングの自由化、(3)海外預金保有の自由化、が
ポイントになっている。業の自由化は、だれでも自由に外国為替業務や両替業務を
行えることを意味する。外為法改正による影響を例をあげてみてみる。
例えば、日本企業A社がアメリカにある子会社に1億ドルの製品を輸出し、9900
万ドルの部品を輸入しているとする。このとき決済は、まずA社がA子会社から受け取
った1億ドルを為銀に売って100億円(1ドル100円想定)の円に替える。そし
て、99億円で為銀から9900万ドルを買い、為銀を通じてA子会社に9900万
ドルを支払う。その時発生する手数料は、A子会社からA社にお金を送るための送金手
数料、1億ドルを円に替えるための為替手数料、さらに99億円をドルに替えるため
の為替手数料、そしてA子会社への送金手数料が発生する。現在、外貨の売買に伴って
銀行が受け取る標準的な手数料は、1ドル当たり1円、送金手数料は1500円程度
になっている。この場合A社は、合計で1億9900万3000円を為銀に払っている
ことになる。外貨の売買に伴う手数料を節約するために、ドルでそのままA子会社に
9900万ドルを支払うとリフティングチャ−ジなる手数料を取引金額の10分の1
から20分の1%払わなければいけない。それが改正外為法施行後は、ネッティング
が認められるため、A社は差額の100万ドルだけをA子会社から受け取ることがで
きる。為銀から見れば、A社との間で合計で1億9900万ドルの売買があったもの
が、一挙に100万ドルに減ってしまうので為替取引の大幅な減少になる。さらに、
アメリカの銀行に口座を開かれてしまえば、A社との為替取引には触れることがなく
なるのである(資料1-5
参照)。
日本の大手6商社の年間為替決済額は30兆から40兆円。外為法改正でマルチ
ネッティング(多元相殺決済)が可能になることで、このうち10兆円以上は相殺
可能とみられ、これまで銀行に支払ってきた決済業務に伴う諸手数料を大幅に削減
できる。日本企業の国際進出は定着
化し、取引にともなう決済額も多額なものとなっている。いままでは規制により高額
の手数料を銀行に支払っていたが、情報通信技術の進歩と規制の緩和によって、企業内
でネッティングを行うシステムを構築することが可能になった。銀行の中でも、さくら
銀行はNTTと企業の国内・海外拠点間の資金移動を瞬時に処理する「国際CMS(キャッ
シュ・マネジメント・サ−ビス)」に乗り出す予定である。外為法改正による手数料収入の減少により、銀行間での競争激
化、淘汰、通信産業との提携などが行われるようになるのである。