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高齢化による貯蓄率の低下予想
と政策課題
前側文仁
環境情報学部4年(t9437fm@sfc.keio.ac.jp)
1997年度 春学期
岡部研究会レポート
(1997年9月24日改訂)
本論文の作成、改訂にあたっては、岡部光明教授に数多くの
御教示を頂いた。また、研究会のメンバーからも有益な指摘、助言を受けるこ
とができた。特に、桑原真盾氏からは具体的な助言を頂いた。これらの方々に、
深く感謝したい。なお、本論文はインターネットにおいても全文アクセス可能
である。
概要
- 日本社会は現在、他の先進諸国に例を見ないスピードで高齢化が進みつつある。
今後の高齢化によって、社会保障の問題や、医療費問題、年金問題などが引き
起こされることが予想されるが、これらの問題を引き起こす根本的な問題は、
生産年齢人口に対する老年人口の割合の上昇である。この現象は今後の日本の
貯蓄率にも大きな影響を与えるため、上記の国内問題だけでなく、対外的にも、
収支不均衡(経常収支黒字)の動向と密接な関わりを持っている。
- 高齢化社会になれば、高齢者の大幅な貯蓄の取り崩しが行なわれるとみて、成
長率の鈍化により、一人当たり所得の伸び率が低下する可能性が大きく、この
ため、憂鬱な社会になるとの指摘がある。しかし、人口要因が貯蓄率低下の大
きな要因の一つであるとしても、仮に何らかの要因(政策要因を含む)により、
貯蓄率の低下がさほど大きくないとすれば、高齢化社会といえども豊かな
社会ともなりうる。一方、対外収支不均衡の問題に関しては、日本の高貯蓄が、
経常収支の大幅黒字の原因であるとして、貯蓄率を下げるべきだとする見方が、
特に海外では多い。しかし、世界全体の資金需要は、市場経済体制へ移行する
国々も加わって根強いことから、日本の世界に対する貯蓄の供給は重要であり、
このため、日本の貯蓄率は下げるような政策をとるよりも、むしろ、高い水準
を維持する方がよいと思われる。従って、国内的に見ても対外的に見ても、日
本の貯蓄率は高い方が望ましい。こうした状況下、今後の日本の貯蓄率の動向
を予測すると、日本人はライフ・サイクル・モデルにのっとって貯蓄を行なっ
ているので、ほとんどの研究では、貯蓄率は今後、低下していくことを示唆し
ている。
- この現状に対処していくためには、多数の高齢者が所有している資本ストック
(実物資産)を、多額の実物資産を定期的な収入を生む形に転換し(実物資産
のフロー化)、年金給付を減額するといったような手段をとることが、望まし
い方向である。このため、こうしたフロー化を妨げている制度的な諸要因を削
減する政策(譲渡所得税・相続税の軽減、借地借家法の改正等)をとることが
今後の重要な課題である。
Fumihito Maegawa
Mon Mar 16 20:15:21 JST 1998