日本の高齢化社会に対して、いままで述べてきたことを要約すると、高齢化に対し、労働不足を補う、より多くの資本ストックがあれば、人口減少に対処できるはずである。しかし、日本の家計の貯蓄行動はライフ・サイクル・モデルにのっとっていると判断でき、今後貯蓄率は大幅に低下していくことが予想される。
ここで考えられる対処は、既存のストックを活用するということである。高齢化社会は、ストック社会でもある。このストックの運用の利便性、多用性を図ることが重要だと思われる。実際、多数の高齢者が多額のストックを所有しており、またそのストックの大部分が実物ストックであるから、その活用を図ることは非常に意味のあることであると思われる。
高齢化の影響として、老年人口比率の増加による公的年金給付の増大が、若年労働者への過大な負荷となって労働意欲の減退を招き、また年金財政が危機にひんするなどした結果、総体として社会的、経済的活力が失われるのではないかと思われている。しかしこの一方で、高齢者は多額の実物資産を蓄積し、かつ、その資産を有効に活用していない。現在でも実物資産を定期的な収入の形に転換することは可能である。具体的な方法としては、一つには「自宅を売って、年金商品や投資商品を購入するとともに、比較的不便な所の住宅や小さい建物に買い替えるか、あるいは賃貸マンションに住み替える」。二つ目は「自宅を賃貸することで、家賃収入を得て、適当な広さの賃貸マンションに住み替える」。三つ目は「自宅を担保にして融資を受ける。そして、死亡後、自宅を売却することで融資の返済を行う」。四つ目は「自宅を建て替えマンション併設とすることにより、家賃収入を得る」などが考えられる。ところがそうした資産のフロー化が十分になされているようには見られない。それは、住宅などの実物資産をフローの所得に転換するための制度的コストが高いからである。以下、その要因について述べる。