初期時点では生活水準の異なる国々が、最終的にその水準が等しくなっていく現象は、「収束」(convergence)と呼ばれている.この収束現象はソロー・スワンモデルの重要な特徴の1つであり、技術進歩率や人口成長率を所与とした場合に成立するものである.これは、仮に初期時点で各国の資本・労働比率が大きく異なり、その生活水準にも大きな差が存在したとしても、各国の人口成長率や貯蓄率、生産技術(生産関数)といったものに大きな差がないかりぎり、各国の経済は長期的には同じ定常均衡へ到達することになるからである.収束現象が意味するものは、同じ資本・労働比率を持つ定常均衡では、各国の生活水準は基本的に同じであると仮定し、貧しい国々もやがては先進国の労働・資本比率に追いつくことで、同じような生活水準を達成できるということである.
このような収束現象は、OECDのデータを用いる場合には非常によく成立していることが知られている.図は、1人当たりGNPの対米比率を時系列でグラフ化したものである.このグラフからは、70年代の初期には格差があった国も、最近になるにつれてその格差が小さくなっていることが十分確認できる.
他方、途上国のデータをつかって同様のグラフを作成した場合には、この収束現象があまり成立しないことも有名である.図、図はそれぞれ、NIEsとASEAN4、日本、中国の1人当たりGNPの対米比率をグラフ化したものである.このグラフからは、日本と香港、シンガポールをのぞいては、収束が見られていないことが確認できる.さらに、これらの国よりも所得水準の低い国を含めた場合は、非収束傾向がより顕著にあらわれるのである.
近年の成長理論に関する研究は、これらの特徴と矛盾しない新古典派成長理論を構築することに主眼を置いている.つまり、高い経済成長を達成した国とそうではない国とに分かれたのかを分析し,どのような要因が寄与したのかについて実証することにある.
経済成長の源泉を分析するアプローチには、前節で紹介した成長会計に各国の時系列データを当てはめる方法のほかに、クロスカントリーデータを用いた国際比較の方法が代表的である.本節では、まず最初に、収束現象の簡単な説明と実証を行う.そして,新古典派経済成長理論にクロスカントリーデータを当てはめて成長の源泉について分析を行い、他の研究結果と同様に、基本式のみでは東アジアの高成長を十分に説明できないことを確認する.次いで、技術進歩が外性的に与えられると仮定する新古典派経済成長モデルを基本とし、様々な経済活動によって内生的に技術進歩がもたらされるとする内生的経済成長モデルを用いて分析を行うことにする.