β収束性は、初期状態の一人当たり所得が低い国ほどその後の経済成長率は高いという仮定をおいているので、この点を調べるために次のような単純な回帰式を作成した.
但し、lnGrowthは経済成長率、Cは定数項、lnGDP60は1960年における一人当たりGDPの対数値である.もし、β収束性が満たされているならば、αの符号はマイナスを示すはずである.この回帰式にクロスカントリーデータを当てはめてαの値を推計した結果が表である.
1960年の一人当たりGDPの係数は負の値を示している.この結果は,収束現象と整合的であると思われる.しかし,東アジアについてはその係数は有意に正の値を示している.このことは,東アジアにおいては,新古典派経済理論が想定する収束現象が見られていないことを意味している.
このように収束現象が見られないことは次のことを意味している.新古典派経済理論によるなら,初期状態の一人当たりGDPが低い経済ほどその後の成長は高いものになる.よって,東アジア経済においてそのような収束現象が見られていないということは,新古典派経済理論が想定する資本と労働,技術水準など以外に,経済成長に寄与する要因があるということを示していると考えられる.
では,資本や労働の投入量や技術進歩以外の何が経済成長の水準を決定するのであろうか.次からは,経済成長に寄与するさらなる要因について分析していくことにする.