next up previous contents
Next: 東アジアにおける非収束的現象の確認 Up: 内生的経済成長理論から見た東アジアの高成長の源泉 Previous: β収束性:無条件収束の有無

3.2 内生的経済成長理論の基本的な説明と基本方程式の導出

これまで議論を進めてきた新古典派経済成長理論では、経済成長の源泉は資本と労働力の投入量と、外生的に与えられる技術進歩と仮定していた.けれども、この理論では、経済活動と技術進歩が独立的に動いていることになり、経済成長を分析する経済学者にとって十分に満足のいくものではなかった.さらに,この理論枠組みだけでは,東アジアに起った高成長を説明することが困難なのである.

この様な不満の結果、経済成長の決定要因を、技術進歩のような外生的成長を続ける変数に依拠せずにモデルの内部で決定しようとする試みが、新古典派経済成長理論をさらに拡大した内生的成長理論となって生まれてくることとなるのである.

内生的経済成長理論の特徴の1つは、経済成長の源泉を経済活動の結果として内生化した点にある.つまり、経済成長に関して勝ち組みと負け組みとに分かれた理由を、様々な経済活動の違いによって説明することが可能になるのである.2つ目の特徴は、資本に関する限界生産性が逓減しないことである.いま、生産関数が以下のようなコブ=ダグラス型であるとするgif

ただし、Ktは物的資本ストック、Htは人的資本ストック,Ltは年率nで成長する労働力、Atは年率gで成長する技術水準を表している.ソロー・スワンモデルと同様に、生産の一部が物的・人的資本の投資に使われるものとして、Skを物的資本に投資される生産物の比率、Skを人的資本に投資される生産物の比率であるとする.このとき、労働者1人当たりの物的資本ストック(kt)と人的資本ストック(ht)を次のように表すことが可能であるとする.

これを動学式で表すと、以下のようになる.

ここで、dは物的資本および人的資本の減耗率で、簡単化のために互いに等しいものとする.また、

である.

このとき、定常状態におけるytの対数値は以下のようになる.

ここで、yをこの式によって与えられる定常状態におけるytの値とする.このとき、定常状態の近傍では近似的に、収束のスピードが次の式によって与えられる.

ただし、f=(n+g+d)(1-a-b)である.したがって、初期時点を0、現在時点をTとおくと、この線型近似のもとでは、

が成立する.さらにこの式の両辺からln(y0)を引き、先に定義したyを代入することによって、次のような「経済成長率の収束に関する基本方程式」が導かれることになる.

この式の左辺は、ある任意の0期からT期までの一人当たり経済成長率である.したがってこの式は、各国のT期間の平均成長率が、定常状態の所得水準を決める要因((3)式におけるSk、Sh、n + g + d)と、初期時点の所得水準(y0)から決定されることを示している.特に、右辺のln(y0の係数がマイナスであることは、より初期時点の所得水準が低い経済ほどその後の経済成長率が高くなることを意味しており、これが「経済成長の収束」を表しているのである.また、この式は、質的な人的資本を投入要素として加えることで新古典派経済成長モデル拡大し、線型近似したものであるといえる.つまり、ここでの結論は新古典派経済成長理論と相反するものではなく、むしろ理論を拡大し、その説得力を高めるものだとも言える.

ところで、(5)式を、α=-(1-e-ft)、β=(1-e-ft)*a/(1-a-b)、γ=-(1-e-ft)*(a+b)(1-a-b)、δ=(1-e-ft)*b/(1-a-b)、とおくと、次式へと書きなおすことが出来る.

ただし、GYPiはi国における一人当たり実質成長率、RYOiはi国における初期時点の一人あたり実質所得の対数値、INViはi国におけるGDPに占める物的投資シェアの対数値、GNiはi国における人口成長率にg + dを加えた値の対数値、SHiはi国におけるGDPに占める人的資本投資のシェアの対数値である。

この4つの説明変数からなる線型回帰式は、最近の経済成長の実証研究において最も標準的に使われてきたものであるgif.本稿においても、この(6)式を基本方程式とすることにする.そして、まずこの基本方程式では、東アジアにおける経済成長が収束しないことを確認する.そして、質的な人的資本の蓄積をはじめとするその他の要因を加えることで、東アジアに見られる非収束的現象が一部説明されることを実証することにするgif



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST