ここでは、適切な人的資本やその他の要因の影響を考慮しない新古典派成長モデルを用いた場合、成長の収束が見られないことを確認する.推計する回帰式は次式である.
ただし、GYPiはi国における一人当たり実質成長率、RYOiはi国における初期時点の一人あたり実質所得の対数値、INViはi国におけるGDPに占める物的投資シェアの対数値、GNiはi国における人口成長率にg + dを加えた値の対数値、SHiはi国におけるGDPに占める人的資本投資のシェアの対数値である。
この回帰式に、Mankiw, Romer and Weil(1992)のデータセットを当てはめて推計を行った.なお、これらの変数は、Summers and Heston(1988)によって作成されたReal National Accountsに基づいて計算されたクロスカントリーデータである.推計結果は表のようになった.
この推計から,基本的な新古典派経済成長理論を支持する結果を4点指摘することが出来る.第1は,今回の推計でも60年における一人当たりGDPの係数は負の値を示しており,収束現象は支持されていることである.第2は,投資の係数が正であることから,投資の拡大,ひいては資本ストックの増加は経済成長に正の効果をもたらすことである.第3は,生産年齢人口の増加の係数が正の値を示している点である.これは,生産年齢人口の増加は労働力投入量の増加をもたらし,高い経済成長率を実現させると考えられる.第4は,質的な人的資本の代理変数である学校就学率の高まりは,経済成長率に正の効果をもたらす点である.このことは,より多くの人的資源へ投資を行っている国の方が,経済成長率が高まることを表している.
しかし,ここでも東アジアでは,収束現象は指示されていない.ということは,ここで採られた変数は,東アジアの高成長を説明するには不十分であることを意味していると推測される.