この小節では,なぜ東アジアにおいて質的な人的資本の蓄積が進んだのかについての議論を行った.そしてその理由を考察するために,初期段階の質的な人的資本の水準が,(1)その後の高成長との間に関係をもつかどうか,(2)公的および民間の人的資本に対する投資に影響を与えたのかどうか,の2点の仮説をたて,それぞれについて分析を行った.
まず,初期段階の人的資本の水準は,その後の経済成長率との間に有意な関係があることが明らかになった.特に,初期段階の初等教育と中等教育の普及と,男性の教育水準が,その後の高成長を説明する上で重要な要因であることが実証された.
また,民間投資へは,初期段階の初等教育と中等教育の普及と男性の教育水準が,大きく寄与したとする結果が得られている.特に,東アジアでは中等教育の教育の普及による寄与が相対的に高く,東アジアで質的な人的資本の蓄積がすすんだ一因であると解される.
一方,初期段階の教育水準が民間投資に対して正の影響を与えたとする結果が得られているものの,東アジアの係数の統計的な有意性は低く,高成長を説明する要因ではないと考えられる.さらに,政府教育支出への影響は,初期段階の教育の普及と教育水準の双方とも,影響はなかったと考えられる.
つまり,本小節での議論をまとめると次のようになる.第1は,初期段階における人的資本の寄与度は,初等教育と中等教育の普及が重要であるということである.そして第2は,東アジアで質的な人的資本の蓄積が進んだ背景には,初期段階で初等教育と中等教育が比較的に普及していたことと,男性の教育水準が高かったことが関係しているのではと考えられる.