質的な人的資本を直接的に計測することは困難であるため、ほとんどの場合は、学校就学率をその代理変数として推計は行われてきた.この変数が選択されてきた理由は、UNESCOなどのデータによって入手が比較的に容易であったことが挙げられる.そして、前小節での結論は、より多くの人的資本へ教育投資を行っている国の方が経済成長率が高くなる、というものであった.この結論から、人的資本の量的な拡大は、経済成長に対して正の効果をもたらすと考えられる.
しかし、この学校就学率を人的資本の代理変数として推計を行った場合、次の2つの問 題が生じてしまう.第1は、先進国では学校就学率の格差が小さいため、先進国内における経済成長率の違いを説明することが出来ない点である.もっとも、途上国と先進国の経済成長率の違いを説明する場合には、それほど問題はない.
第2は、確かに教育の普及は大切であるが、それ以上に教育の質の向上がより重要ではないかという点である.例えば、学校へ通う人数が増えるということは、教育を受けたことのある人数が増えるわけで、経済成長にはプラスであると考えられる.けれども、その教育過程からどれほど質の高い教育を受けたのかについては、学校就学率からは推測が出来ないのである.つまり、質的な人的資本を計る場合、教育の普及の観点からのみ見るのではなく、教育水準の高度化の側面からも分析をする必要があるのである.
そこで、教育水準の改善の側面を表すと考えられる変数として政府教育支出のGDPシェアをとりあげ,教育段階を考慮にいれて分析を行うことにする.