資本ストックは、「住宅」や「建物」、「構築物」、「機械等」、「車両運搬具等」などにより構成されている.けれども、「住宅」は直接的に生産活動に関わるわけではない.よって、「住宅」を資本ストックに加えてTFPを推計すると、資本ストックの寄与度が課題評価になる可能性が考えられる.
そこで、資本ストックから「住宅」を取り除き、(1)式を同様の手法を用いてTFPを推計してみる.まず、資本ストックから「住宅」にあたる部分を除いた場合の資本分配率は表となった.推計方法や判断基準は、これまでとまったく同様のものである.
この推計結果から得られる重要な結果は次の3つである.1つ目は、ほとんどの国において、資本分配率は低下している点である.これは、「住宅」の存在によって資本ストックの寄与度が過大評価されていたためと考えられる.
2つ目は、フランスや日本、韓国、台湾、イギリスなどでは、資本分配率はほとんど変化していない点である.この理由としては、資本ストックに対する「住宅」の影響が小さく、経済成長に対する資本の寄与度は比較的安定的だということである.この見解は、これらの資本分配率のt値が、ほとんど変わらないかむしろ上昇している点からも十分に支持されていると思われる.
3つ目は、資本分配率が低下している国のうちで、香港やイタリア、アメリカなどではt値が大幅に下がってしまい、統計的に見て有意ではない結果になっている点である.なぜこの様な結果が得られたのかはわからないが、推測するに、「住宅」ストックの存在によって労働者は高い質の休養をとることができたり、持ち家の購入へのインセンティブが働いたりすることで、それが高い生産をもたらす可能性が考えられる.これらの要素は本来ならば労働力投入量による寄与として顕在化するはずであるが、労働力人口や就業時間、勤労日数などを考慮しただけでは数値としては現れないため、資本ストックの過大評価へと結びついていたと予想される.
この資本分配率をもとにTFP寄与度を推計した結果が表である.
ほとんどの国や地域(チリ、ベネズエラ、日本、フランス、フィリピン、韓国、台湾)では、TFPの寄与度はあまり変化が見られなかった.つまり、これらの地域では、資本ストックに住宅が含まれているかという点は、重要な要素ではないということになる.もっとも、まったくTFPに変化が見られなかったわけではないので、住宅が含まれていることによる影響は、限定的であったという結論にとどめておくことにする.
一方、メキシコやアメリカ、イタリア、タイ、香港では、大幅にTFP寄与が上昇している.しかしながら、先ほども述べたように、香港とイタリア、アメリカの資本分配率の有意性は非常に低いものである.よって、有意でなかった地域を除くと、タイとメキシコでのみTFP寄与の改善が見られたということになる.
以上の結果から考えられることは、次の2つである.第1は、資本ストックに「住宅」が含まれていることは、それほど重要な要素ではないということである.というのも、今回推計した多くの国や地域では、住宅を含める場合と含めない場合とで、TFPに大きな違いは見られなかったからである.それよりもむしろ、資本ストックから住宅を除去すると推計値自体の有意性が低くなることを鑑みるなら、資本ストックに住宅を含めておくべきであるとも考えられる.
第2は、資本ストックに占める住宅の比率が高いほど、除去をした時の影響は大きいのではないかということである.この仮説が当てはまるのかを確認するために、住宅の資本ストックシェアを求めてみた(表).
結果からは、住宅のシェアと、それを資本ストックから除去したときのTFPに対する影響の大きさとの間には関係は見られない.例えば、大幅にTFPが上昇したイタリアの住宅シェアは87.7%と高い比率であるが、同じく高いシェアを持つチリ(57%)では、TFPはほとんど変化していない.また、香港やタイでは、住宅シェアは相対的に見て低い値であるが、TFPは大きく変化しているのである.
ここでの議論をまとめるなら、(1)基本的には資本ストックに住宅が含まれていてもTFPの推計にはそれ程重要な問題ではない、(2)けれども、特定の地域では住宅を資本ストックから除去するとTFPを変化させる可能性があるが、同時に統計的な有意性を損なう虞もあるということ、ということになる.よって、TFPを推計する際に住宅を含めるかどうかという問題は、注意が必要である.