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2.6.2 資本ストックの推計値の違いによるTFP寄与度の変化

本稿で用いた資本ストックのデータは、Summers and Heston(1991)のデータセットから得られたものである.では、もし、異なる資本ストックの推計値を用いた場合にも、同様の結果が得られるのだろうか.

資本ストックは、国富調査などを行わなければ、直接的に測定することは非常に困難である.そこで、資本ストックを推計する場合には一般的に、資本ストックの耐用年数や各年の固定資本形成などにより間接的に求められることが多い.しかしながら、この方法を採った場合、耐用年数や資本ストックの除去率、資本ストックの分類をどこまで広げるか、などの違いにより、推計値が変わってしまうおそれがある.結果として、資本ストックの違いにより、推計されるTFPが左右される可能性が考えられる.

そこで、異なる資本ストックを用いてTFPを推計した場合に推計値が変化するのかについて、実際に資本ストックを推計して確認してみることにするgif.様々な制約などにより、今回推計を行ったのは、日本とアジアNEIsのものである.なお,資本と労働の効率性を考慮に入れるため,資本の稼働率や労働時間,1年あたりの平均労働日数を加えて,資本投入量と労働投入量を推計している.

まず、上記の(2)式を用いてトレンド変数を含む場合と含まない場合とに分けて回帰分析を行い、資本分配率を求めた.推計法はさきほどの方法と同様に最小二乗法と最尤法、コクラン・オーカット法の中からもっとも当てはまりのよい手法を選択した.その結果が表gifである.

  
表: 資本分配率推計結果(2)

この数値をもとに,上記の(1)式を用いて経済成長に対するTFPの寄与度を推計したものが、表gifである.

  
表: TFP推計結果(2)

得られたTFPの数値はまったく異なるものとなり,先ほどの結果に比べて1%ポイント以上もの違いが生じている.この理由には,第1に,経済の効率性を考慮に入れていなかった先ほどの推計では,一人当たり資本ストック投入量を過大評価していた可能性が考えられる.第2は,推計した期間が異なることである.第3には,資本ストックの推計値の違いが考えられる.

けれども、先述したように、数字の絶対値自体にはそれ程意味はない.ここで重要なのは、得られたTFP寄与度を国別に相対的に見た関係である.TFP寄与度を高い順から並べていくと、(1)香港、(2)韓国、(3)台湾、(4)日本、(5)シンガポール、の順になった.この順番は、Summers and Heston(1991)のデータをもちいて推計した先ほどの結果と整合的である.ということは、経済の効率性や資本ストックの推計値に違いがあるに関わらず,アジア経済地域におけるTFPの寄与度は相対的に見て低かったことになる.この結果により,東アジアの高成長の源泉に対するTFP寄与度が低かったとする結論は,説得力を増すのではないかと考えられる.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST