これは、東アジアの発展段階は1960年代の先進国より前の段階にあり、そのようなレベルでの発展途上国経済が成長するプロセスにおいては、技術進歩の貢献は大きくないのが一般的であるという考え方である.一見すると、発展途上国は既に開発された先進国の技術を学ぶだけでよいので、その技術進歩も相対的に容易なように思われるかもしれない.しかし、実際に先進国の技術を学ぶことは容易なことではなく、先進国の技術にわずかな付加価値を加える生産活動だけが発展途上国の取り分となっているというのである.
この点を確認するため、今回推計したTFPを5年ごとの副期間に分類し、各期間ごとのTFPの値をもとめてみた(表).この様な分析を行う理由は、もし本当に発展段階とTFPの寄与度の間に関係があるのなら、60年代に比べて経済的に発展しているだろうと思われる最近年になるにつれて、TFP推計値が高まっていくと考えられるからである.この表を見る限りにおいては、最近年に近づくにつれてTFP推計値が高まっていることが確認できる.特に、80年代に入ってからTFPはより高くなっているように思われる.つまり、発展段階が先進国のそれに近づくにつれてTFPの寄与度は高まっているといえる.
ただ,この結果が東アジアの発展段階の違いによるものだと説得力を増すためには、さらに詳細な分析が必要である.