この小節では,TFP推計に関する疑問点,(1)資本と労働の稼働率の問題,(2)資本ストックの推計値の違いによる影響,(3)資本ストックに住宅が含まれている問題,(4)TFP寄与度と経済発展の段階の関係,について考察を行った.
まず,資本と労働力の稼働率を考慮にいれてそれぞれの投入量を推計し,TFP寄与度を求めた.結果は,たしかにTFP寄与度は以前に比べて上昇したものの,その国別に見た相対的な関係はまったく変わらなかった.つまり,投入量の稼働率や資本ストックの推計値の違いは,TFPを求める上ではそれ程重要な要因ではないということになる.同様に,資本ストックに住宅が含まれている点についても,必ずしも資本の過大評価につながるわけではなく,重要な要因ではないと考えられる.唯一,TFPの寄与度と経済の発展段階の関係についてのみ,その両者の間にはある程度の関係が見られた.
以上から,東アジアの高成長に対するTFPの寄与度は低かったと結論づける.そして,その背景には,同地域の発展段階が,TFPが重要な要因となる水準にまで達していなかったということが考えられる.