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2.5 コブ=ダグラス型生産関数による資本分配率の推計

(1)式を用いてTFPを推計するためには、まず最初に資本分配率を求めなければならない.資本分配率を直接的に推計する方法もあるが、ここでは回帰分析の手法をもとに、間接的にもとめることにする.

1次同次のコブ=ダグラス型生産関数を、

とする.但し、Yは総生産、Aは技術水準、Kは資本ストック、Lは労働投入量である.この式の対数をとり線形化する.

この式の第3項を展開し、logLを左辺に移項して整理すると、

となる.この式を回帰分析により推計し、資本分配率を求めた.また、Y/LとK/Lは上昇トレンドをもっていると考えられるので、トレンド変数(γT)を含む式、

も同時に推計することにする.

推計法は、最小二乗法と最尤法、コクラン・オーカット法で、それぞれトレンド変数を含む場合と含まない場合とに分けて推計しているgif.その結果から、(1)自由度調整済み決定係数、(2)F値、(3)ダービン・ワトソン比、(4)係数のt値、などを基準として、もっとも当てはまりのより推計結果を資本分配率として選択している.

まず,資本分配率の推計結果は表gifとなったgif

  
表: 資本分配率の推計結果(1)

この結果から次の興味深い事実を確認することが出来る.第1は、発展していない国の資本分配率は比較的にそれ程高くはないということである.例えばフィリピンやチリ、ベネズエラなどでは、0.3から0.4程度と他の先進国の資本分配率と比べて低い値にとどまっている.このことは、総生産の多くが労働力の投入によってなされていることを意味し、資本ストックの重要性がそれ程高くは無いことを表していると思われるgif.よって、これらの地域では、今後資本ストックの蓄積を進めることで、さらなる経済成長を達成することが可能なのではと考えられる.

第2は、先進国にもかかわらず、アメリカの資本分配率が低い点である.アメリカといえば、一般的に資本集約的産業がその経済の中心だろうと思われている.しかしながら、今回の推計の結果からは、まったく逆の結果が見られたのである.これは、「レオンチェフの逆説」と知られている結果と整合的である.アメリカの資本分配率が低い理由は、米国経済の中心にあるのは情報通信やサービス業をはじめとする第3次産業であり、この産業では有形固定資産などの資本ストックによって付加価値生産がなされるわけではないためである.第3次産業において重要なのは、高度な人的資本と、それを備えた労働力なのであるgif

以上の結果を踏まえた上で、上記の(1)式によりTFPの寄与度を推計した結果が表gifである.値は、全期間(65年-90年)の平均値として表している.

  
表: TFP寄与推計結果(1)

まず、1つ目に言えることは、国ごとを相対的に見た場合、TFP寄与度の高さに違いはあまり見られないことである.この点については、Young(1994)の結果とも整合的であると思われる.ただ、香港とベネズエラについては例外的な結果が得られた.香港は、3.02%ポイントと高い値を示している.これは、香港が他の地域に比べて高いTFPの上昇を達成したことを意味するのではと解される.

また、ベネズエラは‐1.64%ポイントとマイナスの値が見られた.この点からは、次の2つのことが推測される.第1は、同地域では技術進歩がマイナスであったことである.しかし、一国の技術水準が下がりつづける状況というのは想像しがたいものがある.そこで、第2に、今回の推計で用いた一人当たり資本ストックには設備の稼働率などが考慮されておらず、景気変動による資本の稼働率の変化や効率性の変化などの影響が,全てTFP寄与度に反映されているのではということが考えられる.つまり、今回のTFPの推計値は純粋な意味での技術進歩ではなく、経済の効率性や稼働率を含んだ広義の技術進歩であるといえる.この意味において、ベネズエラに見られた数値は、技術進歩以上に経済の効率性が低下したためであると考えられる.なお、同様のことは他の全ての地域にも当てはまることである.よって、ここで得られた数値は幅を持って解釈する必要があると思われる.

2つ目に言えることは、経済成長率に対するTFP寄与度は、資本寄与に比べて小さいことである.これは、今述べたように、資本の稼働率の低下や経済の効率性の低下などがTFPへと反映された結果、TFP寄与が過小評価されている可能性が高い.例外として、チリが3分の1程度、フィリピンが半分程度、香港では5分の3程度が、TFP寄与によって説明されている点が挙げられる.

3つ目に言えることは、経済成長率に占めるTFPの割合を見る場合、東アジアではむしろその他の地域に比べて小さいことである.というのも、東アジアでは実際に高い経済成長を成し遂げているため、TFP寄与度が他の地域に比べてそれ程違いがなかったとしても、経済成長に占めるTFP寄与の割合は相対的に低くなってしまうからである.

最後にまとめるなら、本節での推計からは、東アジアの高成長に対するTFPの寄与度は低いという結果が得られた.これは、Krugman(1994)の指摘した通り、同地域の高成長は資本や労働力などの投入の増大によるものだとする見解を支持するものであると思われる.たしかに、投入量を増大し続けて高成長を維持すること自体は奇跡に違いはないだろうが、そこにはTFPの寄与する部分は殆ど無かったのである.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST