競争の促進と強化



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競争の促進と強化

顧客の利便性をより向上させるためには、金融機関の競争の促進と競争力の強 化が不可欠である。

日本の金融行政をみると(1)預金者、投資家、借り手といったユーザーの利 益というよりも、業界の利害を調整することを目的とする業界行政、(2)不透 明で官僚の裁量の余地が大きい行政指導、(3)自己責任を原則とする市場メカ ニズムの軽視、という特徴を持っている。ユーザーの利益からみれば銀行経営 についても自己責任原則を適用し、無理な預金獲得競争や貸出競争に走る銀行 は、経営破綻に直面して他行に合併・吸収されたり、倒産するというメカニズ ムを利用するべきである。gifしかし、も う一歩踏み込んだ議論をすれば、それ以上に、預金を集め、貸出をするといっ た従来型の銀行業務自体が、変革を求められているのではなかろうか。

今後わが国では、派生型セキュリタイゼーションも含めた証券化が一層すすむ と考えられ、これは銀行離れと同時に他業種との競争を促進するであろう。

大企業への融資に際して、銀行自体が資金の提供をしても、利鞘は小さくなっ ている。高い格付けを持つ大企業にとっては、直接金融の方がより有利な条件 で国内外から資金を調達できる。そのため、こうした大企業に対しては、銀行 は伝統的な預・貸金業務を継続していたのでは生き残れない。実際、アメリカ では投資銀行業が隆盛を極めている。わが国金融業界がアメリカに10年ほど 遅れて変革を進めていることを考えれば、今後銀行が投資銀行業の知識を持つ ことが、国際競争力を高めていく上でも必要であろう。そのことは、同時に、 個々の銀行がそれぞれの専門性を発揮していく必要性をも提起している。ユニ バーサルバンクのような、複数の金融業務を行う金融機関は世界で10、日本 はそのうち3あれば十分であるといわれているgif。それ以外の銀行は、信用供与 プロセスのアンバンドリングのように審査機能や債権管理、またはオリジネー ターやサービサーとしての業務に特化することにより、競争力を維持すること になるのではなかろうか。

または、地域に特化した銀行(スーパーリージョナルバンク)の可能性もある。 このように大企業においては銀行離れが起きているが、依然、中堅、中小企業 への融資は利鞘の大きい業務である。1996年1月9日の日本経済新聞によ れば、銀行は低金利の提示や企業の海外進出の支援、またはダイレクトメール などを通じて、中堅・中小企業への融資先を開拓しているという。優良な中堅・ 中小企業との取引拡大は多くの銀行にとって共通課題になっており、このため 融資競争は激しく、相手の多様なニーズにどうこたえるかが、取引拡大のカギ を握っているgif、としている。

個人金融の面では、既に、銀行が公共債の取扱いを、証券会社が中期国債ファンド といった預金的性格の強い金融商品の取扱いを通じて、銀行・証券相互に類似 した業務に進出している。そうした銀行・証券相互の参入による競争の促進は、 明らかに個人顧客の選択の幅を広げ、多様な顧客ニーズに応えている。より一 層の銀行業務と証券業務の融合が、顧客の利便性を高めるであろう。



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Hidefumi Watanabe
Tue Apr 30 13:44:21 JST 1996