リテールにおける資産の流動化は、モーゲージ・ローンについてまず行われる ようになった。米国における資産担保証券の発行状況は図6で示すが、住宅ロー ンやクレジットカード債権などの個人向け債権から、売掛金債権などの企業向 け債権までの広い範囲の資産が証券化され、かつ発行量も年々拡大している。 中でも、資産担保証券市場拡大の背景としてよく指摘されるのは、これらの証 券の高い格付けである。例えば、クレジットカード債権証券化の分野で最大の シェアを誇るシティバンクのカーズ(CARDS)と呼ばれるスキームを見ると、 このスキームで発行される証券の大半が最上級の格付けであるトリプルA格で 発行されている。一方で、オリジネーターでありセラーでもあるシティバンク 自身の格付けは、シングルAである。こうした高い格付けは証券化スキームの 特有の構造によって得られたものである。
証券化スキームの信用度評価の基本はスキームが保有する資産の質にある。ク レジットカード債権の証券化であれば、その信用度評価は、証券化のためにプー ルされる債権群の事故発生状況を統計的に評価し、次にそうした資産に生じる 事故を吸収するためのバッファーを評価する。資産の事故を吸収するためのバッ ファーが証券化スキームにおける信用補完であり、それがしっかりしていれば 結果的にオリジネーター自身よりも高い格付けの資産評価が得られる 。
このように、資産担保証券の信用度を支えているのは、スキームに移転された 資産の質と信用補完の厚さである。中でも、個人向け債権が中心のリテールで は、債務者にとっての債務返済のインセンティブは、担保としている住宅を差 し押さえられたり、破産者として社会的に記録されることへの恐れであるから、 債権譲渡によって債権者が交代しても、債務を返済しようという意欲が変化し ないことから急速に成長した。