では、上の分析結果を検討してみよう。 まず、ケース2で指摘されているように、実質所得は減少しているのではないかという 議論であるが、図表17をみると、実質雇用者所得の伸びは低迷はしているものの 前年比にすると一貫してプラスであり、1994年度のI期には 上昇傾向がみられるのがわかる。 次に、ケース3で考えられているように、価格引き下げによってそれに見合った 数量増加は見られないということについてであるが、図表14を 見るかぎり、1993年半ば以降は購入数量は増加している。
仮に日本経済全体でみて 購入数量が増加しなかったとしても、それはマクロ的にみると 問題はない。というのも、確かにミクロ的にある企業のみを考えると、その企業の 販売価格が低下して、しかも価格の低下分をカバーするだけの数量面での 増加がなければ、売り上げ自体が減少してしまう。また、価格の低下分以上の 数量面での増加があり、売り上げは増加したとしても、価格低下以前に比べれば 収益は少なくなる。しかし、マクロ経済的にみれば、個人消費の額が一定あるいは 増加しているとすれば、消費者は、ある製品の価格が低下したことによって 生まれたゆとり分を、他の消費に回しているはずである。つまり、マクロ経済の 景気についていえば、いわゆる価格破壊によって実質値で測った総需要は 一段と拡大しているはずなのである。
また、実質個人消費の消費者物価弾性値が低いという指摘についても、図表18を 見れば分かるように価格弾力性は93年になってますます大きくなっている。 更に、名目所得は年々下がっているので消費が抑制されるのでは、という 指摘についても、図表19を見ると、平均消費性向は下がっていない。 これは、所得の伸びが低下する過程では、消費水準をあまり落とさないように しようとする力(「ラチェット効果」)が働いていることによる。
したがって、これらの分析結果をみるかぎり、内外価格差の解消によって 実質雇用者所得は上昇し、また平均消費性向も低下するわけではないことから、 実質消費支出が増加する。従って、内外価格差解消は望ましいことになる。