しかし、上に挙げたように「規制緩和によって内外価格差が解消されることで、 消費者の実質所得が増加するのであるから望ましいことである」とった意見に 対して、それは余りにも楽観的であるとする指摘もある 。
もし、実質所得が上がっているならば、相対的に価格の高いものへの支出比率が高まる ので、物価指数の下落率よりも、購入単価の下落率が小幅にとどまるはずであるが、 現実は逆であること(図表14)がその理由として指摘されている。 また、平均的サラリーマンの実質所得 も、価格破壊が激しくなったここ1〜2年下落している。したがって、所得を 一定と仮定して、価格だけが下がる場合の議論は、現在の価格破壊問題に答えるには 不適当である、とする。
また、日本興業銀行調査部の1994年のリポート でも、価格引き下げは、それを相殺するほどの 数量増加をもたらさず、消費総額をかえって減少させるという結果がでている 。 その理由は以下のとおりである。80年代を通じて実質個人消費の 名目賃金弾性値は一貫して 消費者物価弾性値を上回る水準で推移しており、わが国の消費者が恒常的に 物価水準の変化よりも名目賃金の変化に対してより敏感に消費態度を 決定してきたことがいえる(図表15)。 従って、この分析結果から、わが国の消費者行動は実質賃金よりも、名目賃金の 変化によって規定されるところが大きいということである、としている。
これまで見てきた分析結果をまとめ、それに付随する影響を整理すると 図表16のようになる。便宜上、ここでは内外価格差解消の賛成派の分析結果を ケース1、宮尾氏の分析結果をケース2、日本興業銀行調査部の分析結果を ケース3とする。