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4.1 国際的解放度

輸出や輸入の拡大をはじめとする国際的解放度の上昇は、大きく分けて次の4つプロセスを通じ、国内市場の厚生を高めて経済成長へ正の寄与をもたらすと考えられるgif

第1は、海外市場の確保である.輸出品を海外に売るということは海外の需要を得ることである.つまり、国内取引のみであった場合に比べて、経済規模自体が拡大することによる効果である.

第2は、国際価格で財やサービスが流入することで、国際市場との間で競争がおこり、生産性が高まることである.この結果として非効率な生産や経営を行う企業は消えていき、財・サービス価格の低下や資源の最適化配分などがもたらされると考えられる.これらの結果は全て価格に反映され、消費者余剰を通じては全国に波及していくと考えられる.

第3は、輸出や輸入を通じて比較優位産業と比較劣位産業とに分かれ、後者が撤退していくことで比較優位産業が拡大し、資源配分の最適化がなされることである.各国が比較優位にある産業に特化することで全体としての厚生が高まる現象は、リカードの比較優位性論として有名である.

第4は、外国から新しい製品を購入するということは、新しい製品を使うことや他の地域の人々との交流につながり、また新しく異なった技術や知識などを学ぶことになると考えれるgif.この様な経験が新しい製品や技術をつくりだす原動力となると考えられる.

このように,国際的解放度の上昇は国際的競争を通じてより効率的な生産を行うインセンティブとなり、結果として労働能力の向上を促す可能性が高いgif

ここでは、実際に国際的解放度の高さが経済成長に正の効果をもたらすのかについて、実証することにする.一般的に,国際的解放度の指標としては輸出のGDPシェアが用いられ,経済成長へと正の寄与を与えることがよく知られている.ここでは,、輸入による効果も重要であると考え、輸出と輸入を足し合わせたもののGDPシェアを,国際的開放度の代理変数とする.データは、Summers and Heston{1991)のデータセットをもとにして、60年から90年までの平均値を求めた.推計結果が、表gifである.

  
表: 国際的開放度と経済成長率の関係

国際的開放度の係数は負の値を示しているが,統計的な有意性は低い.この結果は,次の理由によるものと解される.それは,分子に輸出と輸入,分母にGDPをもってきているため,輸入額だけが大きくてGDPが低い国は,国際開放度が高く出てしまう.たしかに,理論的には先述した経路をたどり一国の経済厚生を高めるだろう.けれども,GDPに計算されるのは経常収支であるため,ここでの国際開放度の大きさは経済成長率へ直接的な効果をもたないのであるgif

ここでの結果で一番重要であると思われるのは,東アジアの係数が有意に正の値を示していることである.同じデータを用いて,全ての地域を含めた場合には統計的に有意な関係が出なかったことに鑑みるなら,次の事実を推測することができる.それは,東アジアでの高成長の一因として,この国際的開放度があるのではないかというものであるgif.それは,東アジアの初期段階の一人当たりGNPの係数の有意性が低く,つまり全てのサンプルを含めた場合の係数と同様に収束現象が見られているからである.

ほとんどのアジア諸国は、国によって若干の違いはあるものの、1960年代の中頃から70年代の前半までのいずれかの時点で、従来の開発政策の基本にあった輸入代替工業化政策の転換を迫られているgif.60年代の中期に輸入代替工業化政策から輸出志向工業化政策への劇的な転換をみせたのは台湾と韓国であり、その成果に鑑みて東南アジア諸国もまた70年代に入って次第に保護主義的諸政策を緩和し、輸出促進的政策を体系化し始めたのである.ということは、東アジアにおける一連の国際化の進展が重要な要素となって人的資本の蓄積を通じた労働生産性の上昇をもたらし、高い経済成長を達成させた可能性が高いと考えられる.

つまり,政府主導による輸出志向型経済への転換の結果,東アジアの経済的厚生が高まり,高成長をもたらしたと考えられるのである.そして,特に東アジアにおいて,この効果が顕著であったと言えるだろうgif

まとめるなら,国際的開放度は一国の経済厚生を改善して経済成長いつを高める効果をもち,60年から90年にかけては東アジアにおいてこの効果が顕著であり,高成長の一部を説明しているということになる.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST