next up previous contents
Next: TFP寄与に関する諸研究による考察 Up: 成長会計から見た東アジアの高成長の源泉 Previous: 成長会計から見た東アジアの高成長の源泉

2.1 東アジアの高成長の特徴

東アジアの経済成長の第1の特徴は、高い経済成長率である.ニクソンショックや固定相場制の崩壊、オイルショック等のため、70年代に入ってのきなみ先進国の経済成長率が頭打ちになる中で、東アジアではそのほとんどで経済成長率を加速させている.表gifは、1967年から1996年までの実質経済成長率を期間別および全期間に分けて平均値をもとめたものである.

  
表: 実質経済成長率の要約

全期間の経済成長率の平均値は、アメリカが2.5%、日本が4.75%と低調であるのに対して、韓国では9.1%、香港6.9%、シンガポール8.8%、インドネシア7.0%、マレーシア7.1%、フィリピン3.7%、タイ7.7%と、東アジアのほとんどの地域で先進国に比べて高い成長率を達成していることがわかる.日本の高度経済成長期(1956年から72年)における平均経済成長率9.3%という高い値には及ばないものの、この時期の世界平均が4.3%程度であることを鑑みるなら、十分に高い成長であると考えられる. 第2の特徴は、経済成長の持続性である.東アジアは、一時的に高い成長率を達成したのではなく、その成長率を長期にわたり維持している.80年代の前半では東アジアのほとんどで成長率が減速しているが、後半に入り再び加速を強めているgif.オイルショックにより途中で頓挫させられたとはいえ、日本の高成長が16年ほどで終了したことを考えるなら、東アジアの経済成長の持続は驚異であると思われる.

  
図: 一人当たりGNPの変化

第3の特徴は、1人当たりGNPの変化である.図gifは、東アジアにおける1人あたりGNPの1966年から1996年までの変化を表したものである.比較の目的から、米国も加えている.この図からは、次の2つの特徴が挙げられる.第1は、高い経済水準を達成しているものの、米国経済への収束は見られておらず、今後の重要な課題であることである.収束現象については後述する.第2は、1人あたりGNPの変化は、香港とシンガポールにおいて際立って高く、さらに両者の変化が非常に類似している点である.

第4の特徴は、購買力平価換算した1人当たりGNPの高さである.1人あたりGNPの変化を国際比較する場合、各国の物価水準を考慮しなければならない.それは、たとえ1人あたりGNPが同程度の国があったとしても、物価水準に差異があるならば、国民の実質的な購買力には違いが見られるからである.図gifは、購買力平価換算した1人あたりGDPのグラフであるgifこのグラフからは,もはや香港とシンガポールの実質的な購買力は,日本のそれよりも高いということを伺うことが可能である.

  
図: 購買力平価換算した一人当たりGNP

以上が東アジアにおける高度かつ持続的な成長の概観であるが、1960年におけるこれらの地域の所得水準は他の発展途上国と比べてそれ程差はなかった点が興味深い(表gif).60年以降,まずNIEs諸国(韓国,台湾,シンガポール,香港)が高成長を達成し,次いでASEAN(マレーシア,インドネシア,タイ,フィリピン)が続き,最近に至っては,市場経済へ移行した中国がめざましい経済成長を成し遂げた.現在、これらの地域における経済成長の源泉がどこにあるのかについての関心が非常に高まっている.

  
表: 1960年における一人当たり所得水準



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST