まず、職業紹介システムについてであるが、わが国は現在でもコンピュータ ネットワークを介した世界で最も進んだともいえるシステムを持ち、一定の役割 を果たしているが、主に生産労働者や一般事務労働者、販売員といった比較的 定型的な作業内容の職業を紹介することを前提としており、とりわけ新産業において 大きな役割を担うものと期待されるホワイトカラーにとっては、十分でない。 従って、情報量が豊富で全国に張り巡らされた(場合によってはグローバルな) ネットワークが求められる。その意味では例えばインターネットの果たす役割が 大きいであろうし、現在でもそのような試みがなされている。
次に、失業者の再教育、再訓練はどうすべきか。 内外価格差の解消によって新産業が開拓されるようになると、新産業での労働力は、 厳しい競争条件のなかから新たに作り出されてくるような新産業に求められるもので あるから、非常に高い競争力、効率性、創造性といったものが要求される。 すなわち、高い技術の質や、知識集約型の労働力が必要とされるのである。 従って、新産業での労働力を育てるためには、これまでの公共職業訓練の ようなノウハウでは対応できず、それぞれ個人が、特有な技能、固有の知識を 磨くために、大学や研究所なども含め、独自に訓練に適合した場所を探し、 そこで実力を磨き、方法論を身につけ、さらに現場に出て技能を修得する といった自助努力が必要になる。こうした自助努力を可能にするために 提案されているのが、自己啓発優遇税制である。 これは、労働者が自己再教育、再訓練にかかった費用とともに、すでに家庭を もっている人には家族の養育費を含めた実費を、課税所得から 控除する制度である。現在でも国が現実に補助金を出す制度があり、その一部は 企業の従業員の自己再訓練のために費やされているが、この予算はきわめて わずかな規模でしかなく、その存在すら知らない人も多い。 この制度は国にとって一時的に税収を減らすことになるが、この制度によって 労働者がスキルを身につけ、日本経済を活性化することになれば税収は高まる ようになるであろうし、教育機関からの税収も増えることになるので、 非常に有効であると考えられる。
第三に、労働市場の流動化をはかるための方法であるが、それには給与の年俸制 が適当であると思われる。従来、日本の労働市場が流動的でないといわれてきた のは、やはり、年功賃金制に支えられた終身雇用制度の存在があったからであろう。 しかし、年俸制の導入によって年功賃金制がなくなれば、労働者にとって同じ企業に 居続けるメリットが現在よりも小さくなるので、自ずと労働市場は流動化する。 ここで、大事なことは、人々の能力や成果といったものを正確に評価し、 それを報酬に結びつけるような方法論を開発することである。 このような方法論は、労働市場が流動化すればするほど市場原理によって 客観的な評価が行えるようになって、やっと確立されていく訳であるから、 まずは、労働市場が開放的であることが求められる。