以上で述べてきたように、情報システムの整備は銀行業に大きな影響を 与えてきた。情報処理・通信技術の革新は、銀行業の効率化をはかるだけでは なく、銀行業務のあり方を再考させるようなダイナミックな変化を、世界規模 で進行させているのである。しかし、日本における情報システムによる銀行のあ り方を変えるような変化は諸外国に比べて立ち後れているといわれ、その原因 は日本に金融行政のあり方に起因していると考えられる。
これまで、日本で実施されてきた金融行政の特徴は、「護送船団方式」と呼 ばれている。これは、戦後日本の金融行政が最も効率が悪い銀行であっても生 き残れるような環境を与えてきたことから、名付けられた。つまり、弱い銀行 を守るために金利規制・業務分野規制などの競争制限的措置を行なってきたの である。こうした護送船団方式は、金融システムの安定性を維持し、信用秩序 の維持をはかるという政策上の目的は最近まで達成できたものの、そのデメリッ トが金融自由化時代の現在、次第に顕著になってきた。
そのデメリットは、
黒田[1]は技術革新の発生の条件として、
日本においては、仮に1については条件が満たされていたとしても、2につい ては、先に挙げた業務分野の規制に代表される金融規制の存在、そして、最近 は徐々に緩和されているものの今だに厳しいともいわれる通信規制の存在によっ て、条件が満たされるとは言えない。また、銀行に対して競争制限的な措置が 取られている日本では、3についてもその程度は低いと考えられる。
このようなことを踏まえた上で、池尾[3]の「護送船団方式による 日本の銀行のイノベーション能力の剥奪」という点に立ち帰るならば、このこ とは充分うなずくことができる。そして、このことは銀行業を活発な産業とす る上で、解決しなければならない重要な点である。
ここで考えられなければならないのは、「効率性」と「安定性」の関係である。 日本の金融制度をみると、「安定性」を得るために「効率性」を捨てているよ うな印象を与える。安定性を高める要因が制度とするならば、効率性を高める 要因はテクノロジーである。21世紀に向けて、高度経済成長を達成し、成熟 した金融制度を持つ日本にとって、安定性だけを選択する公共政策の必要性は 低まるであろう。効率性を達成し、競争と創意工夫を支援する制度を21世紀 に向けて公的当局、銀行業界ともに努力し、構築すべきであろう。