はじめに
近年の情報・通信技術の目覚ましい発達に伴って、パソコン通信・インタ−ネットを
はじめとする不特定多数の者の間のネットワ−クが急速に普及している。資料1から
分かるように1993年では約100万人だったのが、1995年では約4,900
万人にまで増加している(資料1参照)。コンピュ−タ−ネットワ−クは企業のみ
ならず、個人の間でも広がりが見られる。1982年ではインタ−ネットに接
続されているコンピュ−タ−は235台で、それらのうち大半がアメリカに位
置していた。しかし今日では、世界中で約320万台のコンピュ−タ−がネッ
トワ−クに接続されており、約4,900万人の利用者は170か国に散在して
いる(以上の数値はhttp://www.interconnection.com/statist.htm(1996年6月)と資料1による。)。このようなインタ−ネットの利用の拡大に伴い、
電子商取引についての取組みが活発化している。
電子商取引とは、一般的に「ビジネス上のすべてのプロセスにおける情報交換をオ−
プンなネットワ−ク(オ−プンなネットワ−クの特徴として、1.ネットワ−ク
への参加,脱退について制限を設けないこと、 2.参加希望者がネットワ−クにアクセ
スするための通信ソフトを容易に入手しうること、 があげられる。)上で電子化して
行うこと」とされている(電子商取引の定義は「電子決済研究会報告書
」金融情報システム1996年4月号による。)。例えば、インタ−ネット上にホ−ム
ペ−ジを構築してさまざまな仮想商店(「サイバ−モ−ル」または「バ−チャル
モ−ル」とも言う)を設け、一
般消費者向けに商取引を行うことである。資料2に現れているように、このような
電子商取引は日本でも1995年後半から急増しており、今後もさらに増え続けて
いくものとみられる(資料2参照)(1995年12月には約480店が
確認されている(野村総合研究所調査)。ここでの数値(調査の対象範囲)は、日本語で
商品やサ−ビスが表示され、かつオンラインで発注できる事業,及びその集合体(
モ−ル)の数である)。
電子商取引が増加する理由としては、サ−ビス受益者(消費者)と提供者(企
業)の両者にとってメリットまたは利便性があることがあげられる。すなわち、
サ−ビス受益者(消費者)にとってのメリットは、現行の店舗販売や通信販売
と比較した場合、(1)場所にとらわれることなく24時間のアクセスが可能にな
ること、(2)情報検索性に優れていること、(3)流通コストの削減により価格の
低下が期待できることなどが挙げられる。特にデ−タベ−スの利用やソ
フトウェア等、物流を伴わない商品については、店舗に行く手間が省けるだけでなく、
商品が即時に入手できる点で利便性が高い。また物流を伴う商品でも、電子商取引を利
用することにより、遠隔地の特産品や海外の商品等を家庭に居ながらにして購入するこ
とができるというメリットもある。一方、サ−ビス提供者(企業)にとっての
メリットは、(1)店舗販売と比較した場合、開設コストや運用コストが低く比
較的容易に出店ができること、(2)商圏の制限が無いこと、(3)商品や価格の変更が
容易に行えることなどがある。比較的利便性の高い通信販売と比較した場合でも、
カタログの作成や郵送に要するコストが削減できること、電話
受付に比べ受発注時のミスが少ないこと、商品や価格の変更が容易にできること、これ
までカタログを配付していなかった顧客に対してもビジネスチャンスが開けることなど
のメリットがある(以上の電子商取引の増加理由は「電子決済研究会
報告書」金融情報システム1996年4月号による。)。
こうした電子商取引においては、その代金の決済もネットワ−ク上で行うことが
できれば便利であることから、電子決済に対するニ−ズが生じてきたのである。た
だ、電子決済は、運用形態,決済に要するコスト等によって、導入が進むにつれて,
決済金額の規模によって
高額決済,中額決済,小額決済によってすみ分けが起こるとされている(太田和夫
「セキュリティ応用−デジキャッシュ−」による)。本稿では、電子決
済のうち一般消費者が直接利用対象となり、また主として小額決済の場合に利用さ
れると思われる「電子マネ−」についてとりあげ、電子マネ−の現状と課題を決済
方法別に比較しながら考えていきたい。同時に、電子マネ−が今後決済手段として
市民権を得、普及するにあたっての課題を考えていきたい。したがって、企業間取
り引きが中心であり、高額決済で利用されると思われる企業間EDI(Eletronic Data Interchange)や中額決済などについては本稿では扱わないものとする。
また、電子マネ−にいたるまでの金融における情報技術革新の流れ,影響、本稿へ
のとっかかりとして渡邊秀文「情報技術革新は金融に何をもたらしたか?」(岡部研
究会1995年度春学期論文)を参考にした。
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