電子マネ−が決済手段として機能するには


 電子マネ−が決済手段・システムとして成り立つためには、従来の決済手段に 比べセキュリティ−といった技術的側面の課題がまず数多くあり、さらに上記の ような決済手段一般に要請される制度・社会的側面の課題にも独特のものがある。
 技術的側面としては、電子マネ−を実現する上で不可欠の技術とされているのは 暗号技術である。クレジットカ−ド決済において、インタ−ネット上でクレジッ トカ−ド番号をそのまま何らのガ−ドもかけずに暗号化することもなく送信して いる例も見受けられるが(資料19参照)、ネットワ−ク上を流通するクレジッ トカ−ド番号を第3者に盗 み見られて流用される恐れがある。このように、電子マネ−を使用した電子商取 引では、(1)通信内容(取引き情報)が第3者に盗まれないか、(2)通信(取引き )相手は真正な相手なのか、(3)通信内容(取引き情報)が途中で変質、または改 竄されていないか、(4)通信(取引き)した事実を相手方に否認されないか、とい った不安がつきまとうものである。そういった不安を解消させるためには、暗号技 術の活用が不可欠である。素因数分解の困難さ(素因数分解がコンピュ−タ を使っても困難であることに、技術的な基礎をおいている。つまり、十分に大きな 数の素因数分解は困難で、n(十分に大きな二つの素数の積)が150桁の場合、仮に 1000MIPS(1MIPSは100万回演算/秒)のコンピュ−タを使ったとしても、 発見までに1000年もかかる計算になる。このため、十分に安全な暗号技術とみな されている。)に依拠した暗号化によって、ディジタル署名が可能になり、デ−タの 改竄を防ぐことができる。こういった暗号技術の活用を推進していく事、技術面の検討 ・整備は電子マネ−実現のためには不可欠である。(日経マルチメディア1995年11 月号「デジタル・キャッシュ」より)
 電子マネ−の実現のためには以上述べたような、技術面での検討・整備が不可欠で あるが、電子マネ−が普及するか否かの鍵を握るのは制度・社会的側面である。 電子マネ−を使用した決済であっても、取引き当事者が決済により取引きを完了させ、 その効力が覆される懸念を持つことなく次の取引きに取り組めることが、重要で ある。電子マネ−を決済手段として利用した時に、起こりうるあらゆるケ−スに 対する具体的な検討や法的整備が必要である。例えば、どこかの電子通貨発行体が 破綻をきたしたり破綻するおそれが発生した場合、電子通貨に備わった極めて高い 流動性が逆に災いし、金融システム全体が危機に陥る危険性(システミック・リス ク)がある。しかも、電子マネ−の場合、インタ−ネットで世界中につながって いることから一国内ではその危機はおさまらず、世界規模でシステムの混乱がみ られるであろう。このため、電子マネ−の普及のためには、電子マネ−の性質に あった制度を整備することが必要となる。具体的には、電子マネ−の法制上の位 置づけの明確化、消費者保護のための法制整備、電子マネ−の責任の所在明確化 などの対応をはかることによって金融システムの安定性と一般受容性を高めるこ とによっても電子マネ−の信頼の確保に特段の注意を払うことが最も重要である。

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