通貨危機発生の予測可能性および予防可能性に関する考察
岡部貴士 : 総合政策学部3年
1998年度 秋学期
岡部研究会レポート
(1999年2月改訂)
本稿の作成に際しては、懇切で思慮深いご指導をして下さった岡部光明教授(慶応義塾大学、総合政策学部)に深く謝意を表したい。本文中のいくつかの部分に関して有益な議論を交わすことのできた岡部研究会のメンバーに対しても同様に感謝している。また、白井早由里助教授(慶応義塾大学、総合政策学部)は授業を通じて筆者の国際金融についての理解を深めてくれた。誤りの指摘や本文に関するコメントはメールにてs96202to@sfc.keio.ac.jpまで送信していただきたい。
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概要
- 1997年以降のアジア経済危機においては、通貨価値の急落を意味する通貨危機と国内金融機関の大量破綻を意味する金融危機が同時に観察されたこと(双子の危機)が大きな特徴である。通貨危機
の発生を説明する標準的なモデルには、(A)固定為替レートと国内ファンダメンタルズの
ギャップから投機攻撃が発生するとみるファンダメンタルズに基づく危機モデルと、(B)通貨危機は民間投機家の予想如何によって自己実現的に発生する
とみる自己実現的危機モデルとがある。東アジアではモデル(A)による危機発生の条件を比較的早期に満たしていたにもかかわらず、同地域の経済に対する楽観論が根強かったため、通貨危機の発生が遅れたことが特徴である。
- 東アジア通貨危機を発生させた要因として本稿で重視するのは、(a)外的要因
(世界利子率の変動、他地域での通貨危機等)による資本流入、(b)内的要因(モ
ラルハザード、外資優遇政策等)による資本流入、(c)新興経済諸国共通の悩み(債券市場や金融システムの後進性)、(d)固定相場制度の問題(短期国際資本移動の大
きさと固定為替相場維持の難しさ)、(e)市場や政府によって危機性が認識されてい
なかったという事実、などである。
- これらの分析を踏まえると、以下の5つの教訓が引き出せる。(1)銀行の対外借り入れを助長するモラルハ
ザードを防ぐため、各国政府は銀行に対する監視監督体制の強化を急ぐ必要がある。(2)急激な資本流入を
促す政策を採るべきでないこと。特に短期の外貨借り入れが固定相場制と組み合わされると
危険な状態となるので政府は短資流入額の上限規制を設ける必要がある。(3)外生的に発
生した急激な資本流入圧力に対しては不胎化政策等いくつかの政策を組み合わせることによってインフレや資産価格バブルの発生を回避する必要がある。(4)固定相場に固執すればその通貨をかえって投機攻撃の対象にしやすくするため、通貨危機を防ぐ上では逆効果になる。(5)通貨危機が
発生しつつある過程で早期警告のベルが鳴るようにするため、IMF、先進国のほか、当事国政府
自身によっても経済動向を監視監督する体制を強化する必要がある。
キーワード:アジア通貨危機、ファンダメンタルズに基づく通貨危機モデル、
自己実現的通貨危機モデル、双子の危機、通貨危機発生の先行指標
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