3.1970-92年のデータへの適応


3.1計量用モデル
3.2 資本分配率の推定
3.3 経済成長率の要因分解

3.1計量用モデル

理論的に導出された(6)式は、 各変数が連続的な数値をとる場合を示したものであり、 このため毎年の離散データを使う統計的分析の為には 変形されなければならない
(Barro,Sala-I-Martin(1995),pp.346-347.を参考にした。)。

まず、Y/Yを変形する。
          .
          Y/Y=(dY/dt)/Y 

この分析では、1年ずつの離散データを使うのでdt=1である。
          .
          Y/Y=dY/Y

と書ける。
さらに自然対数logをつかって次のように変形する
(ここでは対数の微分を利用した。dlogY/dY = 1/Y -> dlogY = dY/Y ) dY/Y=dlogY=log Y(t+1)-log Y(t)=log [Y(t+1)/Y(t)] ここでY(t)は第t期のYを示す。 . . . 同様にしてK/K,L/L,T/Tについても変形して(6)式を書き直すと、 (8) log[Y(t+1)/Y(t)]= a log[K(t+1)/K(t)] + (1-a)log[L(t+1)/L(t)] + log[T(t+1)/T(t)] この式に毎年の離散的なデータをあてはめて要因分解をする。 使用するデータについてはその加工式、出所を表1にあげてある。 をそれぞれ85年を100として指数化したデータを用いる。

資本分配率 a については次の通りにして求める。

3.2 資本分配率の推定

経済白書(経済企画庁(1992),p.145,p.435.,(1994),p.391.,(1995),pp.312-313) では従来、労働分配率 b を統計から直接に計算し、それをもとに 資本分配率を (1-b) という形で求めている。 ここでは資本分配率をコブ=ダグラス型生産関数から回帰式により 推定することにする(コブ=ダグラス型生産関数の推計にあたっては、 マダラ(1992),pp.97-98,pp.109-111を参考にした)。 この長所は統計データを加工する繁雑さがないこと、 また短所としてはこうして求められた推計値としての a は 標準誤差をともなう確率変数であるということである。 この短所がこの分析の正確さを低下させているといえる。 だが、この短所は最良線形不偏推定量(Best Linear Unbiased Estimator : BLUE) を求めることで回避できると考えた。このやり方は次に述べる通りである。 コブ=ダグラス型生産関数 Y=A K^a L^(1-a) を自然対数logをつかって線形化した式 log Y = log A + a log K + (1- a ) log L の a は (9) a=∂logY/∂logK =(∂Y/Y)/(∂K/K) =(K/Y)*(∂Y/∂K) となり(6)式のaと一致する。 この(9)式の第3項を展開し$\log L$を左辺に移項して整理すると log(Y/L)= log A + a log (K/L) と書き直せる。この式を回帰分析により推計して a を求めた。 なお、log(Y/L)とlog(K/L)は上昇トレンドを持っているので トレンド変数を含んだ式 log(Y/L)= log A + a log(K/L) + r t も推計した。 これらの推計結果は表2の通りである。 これから(D)式の結果が、t値、DW比の値から優れていると考えられるので、 この場合の a = 0.389336を資本分配率として用いることにする。

3.3 経済成長率の要因分解

以上述べてきた手続きによって計算したのが表3である。 この表3から、経済成長率、資本寄与、労働力寄与、TFP成長率を 景気循環の拡張期、後退期ごとに平均したのが表4である。 同じくこの表3から資本寄与、労働力寄与、TFP成長率をグラフ化したのが 図1である。 これらの分析結果からとりあえず次の3点を指摘できる。
  1. 全期間を通して資本寄与が最も大きい寄与度(73.7%)を示し、 2番目ががTFP成長率(19.1%)、3番目が労働力寄与(7.3%)であった ことである。
  2. ばらつきの大きさの順は 1番目にTFP成長率(標準偏差 1.283)、2番目に労働力寄与(0.907)、 3番目に資本寄与(0.822)である。そして特にTFP成長率と労働力寄与 の変動は景気循環の影響を受けていると考えられる。表4に見られる ように、これら両要因は景気拡張期には増加し後退期には減少する 傾向がある。
  3. 第11循環「平成景気」(86-92年)の経済成長率はTFP成長率による 割合がそれまでと比べて大きくなっている(表4)。 TFP成長率の経済成長率に占める割合は景気拡張期(86-90年)24.4%、 景気後退期(90-92年)22.2%と、それまでにない高い構成比を示している。
これら3点について次の節で他の研究結果と比較検討を行う。