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1 はじめに

ここ数十年の間に,日本をはじめとする東アジアは,高度かつ持続的な経済成長を達成し世界中からの注目を集めている.ここでいう東アジアとは,日本とアジアNIES(韓国,台湾,香港,シンガポール),ASEAN(タイ,マレーシア,インドネシア,フィリピン)のことである.

しかしながら,東アジアの高成長に関して,経済学者の間に明確なコンセンサスがあるわけではない.たとえば、1993年に世界銀行は,東アジアの高成長に鑑み,「東アジアの奇跡」(The East Asian Miracle)と題した研究を発表したgif.その中で、世銀(1993)は、日本やアジアNIIES、タイ、インドネシア、マレーシアをHPAEs(高い成長を遂げる東アジア: High Performing Asian Economies)とするとともに、同地域における高成長へ寄与した要因として、(a)最適なマクロ経済政策や教育への十分な投資等の基礎的な政策や,(b)輸出促進政策をはじめとする各種の選択的な市場介入政策、等を挙げている.

これに対して,Krugman(1994)やEasterly et al.(1993)は,幾つかの研究結果を根拠として,東アジアの経済成長は資本や労働などの投入の増大による一時的なものであると論じ,長期的に維持し続けることに対して否定的な見解を述べている.

本稿の目的は次の3点である.第1は,東アジアの高成長に関する研究成果をサーベイし,(1)経済の効率性,(2)資本ストック推計値の違いによるTFPへの影響,(3)住宅を資本ストックに含めることによる影響,(4)経済の発展段階とTFP寄与度の関係,等の諸研究に関する問題点を考慮して実証分析を行い,高成長の源泉に関する諸研究の再検討をした上で,特に技術進歩(総要素生産性,TFP)が高成長に対して果たした役割について考察することにある.第2は,資本や労働等の投入量やTFP以外の要因が,東アジアの高成長に寄与したことを確認することである.その際には,特に教育の普及や水準の観点から見た質的な人的資本が重要であることを実証する.第3点は,国際的開放度や政治的,市民的権利の自由度も,経済成長に対して与える影響を持つことを明らかにすることである.

そのために,まず2節において、まずこれまでのTFPに関する研究結果をサーベイし、東アジアの高成長へのTFPの寄与についての全く相反する研究結果を紹介する.次に,新古典派成長モデル(ソロー=スワン・モデル)に各地域の時系列データを当てはめることにより,経済成長に対するTFPの寄与度を計測する.そして、TFPの寄与度は小さかったとする結果が得られることを、東アジアとラテンアメリカ、先進国により構成される13ヶ国のデータを用いて確認する.さらに、TFPの寄与度が小さかったことについて、(1)成長会計では技術進歩が適切に計測されていないとする点、(2)資本ストックの推計値の問題点,(3)資本ストックに住居が含まれている点、(4)東アジアの発展段階,の4点について議論をしたいと思う.

次いで、3節においては、クロスカントリーデータを内生的経済成長論に用いて、国際比較による分析を行う.そこではまず、収束という概念を説明し、東アジア諸国の経済成長には新古典派経済成長論が想定するような収束現象は見られないことを確認する.次に、この結果をふまえて、教育の普及や教育水準の改善等による質的な人的資本の蓄積や経済の解放度など、いくつかの要素を加えることで、東アジアの経済成長においても収束現象が見られること実証し、いかなる要因が東アジアの経済成長に寄与したのかについて検討を行う.

そして4節においては,東アジアの高成長に寄与したと考えられる国際的開放度と民主主義を取り上げ,寄与の有無について分析を行うことにする.

最後に5節では,まず最初に本稿の結論を述べ,質的な人的資本を蓄積するための方策についての政策提言を行うことにする.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST