インターネット固有の安全な決済手段の開発



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インターネット固有の安全な決済手段の開発

以上で扱った一連の動きは、既存の決済サービスを用いる一方、それが使用さ れる場合の機密性の高い情報をインターネットを使っていかに安全に送信する かというものである。このケースでは、インターネットの利用は、情報伝達方 法の変更に過ぎない。例えば、クレジット・カード決済における顧客のクレジッ ト・カード番号の場合、現在は加盟店設置の専用端末からクレジット・カード会 社へ送信されているが、これをインターネットを通じた通信に置き換えようと しているにすぎない。

これに対し以下で扱う動きは、情報のやりとりや手続きをすべてインターネッ ト上で行なう、新たな決済の仕組みを開発・研究する動きである。これらの新 たな決済手段は、''electric money'',''electoric cash'',''digital cash'' などと呼ばれている。これらのmoneyやcashの特徴を挙げ るならば、

  1. 物質(紙幣、コイン)ではなく、デジタル化された貨幣の情報をネットワークその他で伝達する、
  2. クレジット取引のような事後的な決済ではなく、「売り/買い」の当事者間でリアルタイムに資金(決済情報)が移動する、
  3. その実現には、暗号技術の活用が不可欠である、
などである[10]。デジタル・キャッシュによる現金の流れを単純化 して示すと、図12のようになる。

これらのデジタル・キャッシュには、大きく分けて二つのアプローチがある。 一つは現金指向アプローチとも呼べるもので、電子マネーとして受け渡される データそれ自体に価値を持たせるようにするアプローチである。もう一つは、 電子マネーとして受け渡されるデータ自体としては価値を持たず、そのデータ の受け取りては、そのデータを使って事後的に価値を受けとる(実現する)仕 組みである。これは、クレジット・カードの仕組みに類似したものであるので、 クレジット・カード類似アプローチと呼ぶことができる[11]。 次に、この二つのアプローチをやや詳細にみよう。

まず前者は、電子マネーの移転をもって支払人と受取人との間で決済が完了す る(図13参照)。このためには、現金のように電子マネー自体が価値を持つ 必要がある(換言すると、当事者間で価値を認め合う必要がある)。この場合 問題としては、一定の価値を持つ電子マネーは、例えばコンピューターの中に データとして蓄えられるわけであるが、これを一度コピーしてしまえば、価値 が二倍に増えてしまうことが挙げられる。(このコピーした電子マネーを使用 することを「二重使用」と呼ぶ。)電子マネーの場合、デジタル情報であるた め完全なコピーを作ることが簡単にできてしまうだけに、現金指向アプローチ では二重使用の防止が重要である。このような問題に技術的に対応した電子マネーは、 DigiCash社のecashgif詳しくは、 gifなど が有名である(ecashのホームページは図15のとおり)。

後者は、電子マネーは支払人の(債務履行の)正当性を証明する「証明書」と して機能し、発行者が電子マネーの内容を確認した上で、支払人から受取人へ の預金口座の振替などを行なうという手続きを取っている(図14参照)。こ の方式の例としては、NetBillgifプ ロジェクトや NetChequegifなどが挙 げられる。

さて、このような電子マネーが経済システムにどのような影響を及ぼすのであ ろうか。「発行主体が誰になるのか」、「金融秩序にどのような影響を及ぼす のか」、「通貨の安全性/信頼性をどのように確保するのか」、「国家の通貨 発行権や徴税権はどうなるのか」など[10]は今後の課題として考え なければならない重要な問題であろう。



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Hidefumi Watanabe
Sat Jan 6 19:31:05 JST 1996