本章の最後として、金融ネットワークの今後の進展と、それに伴う諸課題に 関して触れたい。
ここでは、以下の3点[12]について触れたい。
第一の点については、国内だけをとってみても単一金融機関の内部において営 業店を結んだネットワークから、金融機関相互間のネットワーク、あるいは顧 客とのコンピューター接続へと拡充を示している。企業では、エレクトロニクス 取引の際に、取引先ごとにネットワークが異なると、多端末現象が生じたり、 ネットワーク間をまたぐ取引の場合、接続の過程で一方のネットワークからの 出力書類を元に、他方のネットワークの端末に人手による入力が再度必要になると いった不都合が生じている。そこで、ネットワークのオープン化へのニーズが 利用者の間で急速に高まっている。
また、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)と呼ばれる企業間の 電子データ交換が広範化しつつある。EDIは、企業間取引において、従来はペーパー ベースでやりとりしていたさまざまな情報(決済データを含む)を、広く合意された 標準的な規約に従ってエレクトロニック・ベースで作成して、これをコンピューター 間で交換する仕組みであり、企業はEDIによって受発注データから決済データまでを 取引先や金融機関などと直接やりとりすることが可能となる。EDIはこれまで各業界 に割り振られていた業務や機能の融合化を促し、その再配分につながる可能性が 高く、これに伴いこれまで存在していたネットワーク(業界)間の垣根が打破され、 業界内だけで通用している独自の経済通念、商慣習の変革が求められることに なるであろう。ネットワークのオープン化、EDIの進展は、金融業内部での業際 (たとえば、銀行業と証券業)の垣根を低くするだけではなく、産業間の役割 分担においても、たとえば受発注データの処理は流通業者、資金決済の処理は 銀行の業務といった従来の区分を無意味なものにし、産業のボーダーを変更 あるいは解消する可能性が強い[12]。
第二の点は、コンピューターシステムの現在のトレンドが、分散化・ダウンサ イジングであることを考えればいうまでもないことである。金融ネットワーク でも、従来はメーンフレームの大型コンピューターを用いて集中的に処理して いたものが分散化され、また集中的に管理されていたデータベースも分散管理 されるようになりつつある。システムのオフライン化については、ICカードな どの媒体を使用することによって、一定の情報をカードに蓄積し、それを自由 に持ち歩き、必要なときに自分が選んだ場所においてサービスの提供を受ける ことが可能となる。ICカードの場合、(1)記憶内容の解読や不正使用の防止 が比較的容易である、(2)預金通帳2、3冊分に相当する大記憶容量を持つ、 (3)カードの単価も量産化に伴い低下傾向にある、などのためオフライン処 理による決済システムへの応用も期待されている[12]。
第三の点については、コンピューターネットワークにより多くのものを託すので あれば、当然のことであろう。