第2部
日韓自由貿易圏が両国の消費財の貿易
およびその国内市場に与える影響
不完全競争モデルを用いた部分均衡分析
1.はじめに
本研究は、近年その成立可能性が話題となっている日韓自由貿易圏について、それが関税、非関税障壁の完全な撤廃を伴うものであると想定した時、その政策が製造業民間最終消費財市場に与える影響を、不完全競争をとりいれた静学的な部分均衡モデル用いて分析するものである。本研究がなんらかの成果を伴うものであるとすれば、それは以下の2つに整理することができる。
第1は日韓自由貿易圏について、きわめて限定的ながらその経済効果の一つの目安を提供することである。アジア地域ではこれまでアセアン自由貿易地域(AFTA)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)の経済効果に関してはいくつかの研究が報告されているが[1]、日韓の貿易自由化に関する分析はほとんど行われていない。
第2は、未だに少ない不完全競争の理論を用いた貿易に関する実証研究に、1つの事例を追加することである。先進国の間で主流となっている産業内貿易は、伝統的なヘクシャー・オーリン型の貿易理論では説明が難しい。一般にその産業内貿易は、不完全競争の理論を用いて説明される。財の差別化と規模に対して収穫逓増型の生産活動が認められるときには、この理論は一層の説得力を持つと考えられている。不完全競争を取り入れた幅広い産業に対する実証分析の事例としては西ヨーロッパ地域の貿易自由化と市場統合の経済効果を試算したSmith and
Venables(1988)が代表的だが、それ以降この種の分析事例はさほど積み重ねられていない。特にアジア地域における分析は極めてまれであると言える。
本稿は大きく5つの章に分割される。次章では先行研究が紹介される。第3章では本研究の分析枠組みが説明され、第4章では分析結果が要約される。第5章では、本研究の分析結果の頑健性を確かめるために感応度分析が試みられる。最終章は今回時間的、技術的な要因から見送らざるを得なかった研究課題について言及している。
次章では先行研究として、Smith and
Venables(1988)の研究、そのモデルを応用した2つの研究とAFTAの経済効果を分析したImada(1993)が紹介され、本研究の基本的方向が示される。
第3章では経済の構造、消費者行動、企業行動と企業の費用関数についての定式化、データセットの作成、パラメータの決定と算出、シミュレーションの概要が示される。
第4章では試算結果が要約される。数量ベースでおおまかに見ても、特に日韓の消費者と日本の供給者にとってこの政策は望ましく、また圏内の財の総流通量も過半の産業で増加する、という試算結果となった。この試算結果には日本と韓国の関税および非関税障壁の格差、日韓相互の供給市場の市場規模と右下がりの限界費用関数が重大な影響を与えている。
第5章では感応分析として、一般機械、電気機械、輸送機械と精密機械の4産業を対象とし、本研究で導入された3つの弾性値がそれぞれ採用された値よりも20%小さかった場合を想定してあらためて経済効果の試算を行う。
第6章では今回時間的、技術的な要因から見送らざるを得なかったより現実的な経済構造の導入、より厳密なシミュレーションの手法の導入およびこの政策が日韓間以外の世界貿易に与える影響の計測の3つの課題について、今後の研究の展望が示される。
2.先行研究
本章の目的は、先行研究を整理し、さらに本研究の基本的方針を明確にすることである。本章では自由貿易圏建設を部分均衡モデルを用いて分析した先行研究として、西ヨーロッパ地域の関税、非関税障壁の撤廃と市場統合を分析したSmith and
Venables(1988)[2]と、AFTAの経済効果を分析したImada(1993)の分析枠組みが紹介される。特にSmith and
Venables(1988)の分析枠組みはスペインと西ヨーロッパの市場統合を分析したGasiorek and
Smith (1989)や南米地域の貿易自由化を分析したBehar(1995)にも応用されており、不完全競争の理論を取り入れた実証研究の中では最も評価されているものの1つである。
これらの分析には3つの重要な共通点がある。第1点に、いずれの研究もモデルが各産業ごとに完全に別個なものとして定式化されていることである。つまり、いずれの先行研究も産業内貿易をその分析対象にしている。第2点は、各産業内でも財が供給国ごとに消費者から見て不完全代替の関係にあるものとして、つまり同じ産業の製品でも供給国ごとに、代替関係にありながらも別個のものとして取り扱われている、ということである。これは財の差別化であり、前章で触れた通り産業内貿易を説明する重要な要因であると考えられている。第3点は、供給側の行動を定式化するときに生産要素が考慮に入れられていない、ということである。この意味で先行研究は、最終消費財市場以外の資本市場、労働市場や中間財市場を考慮していない部分均衡分析である。Smith and
Venables(1988)では供給側の行動は費用関数を用いた記述がなされているが、この費用関数は産出量の関数として定式化されている。Imada(1993)では供給数量は価格を説明変数とした供給曲線で示されている。これら3つの特徴は、いずれも本研究に引き継がれる。
上述したもの以外の重要な研究の特徴と本研究の方針を表1にまとめておく。
表1:先行研究の特徴と本研究の方針
|
対象地域 |
対象政策 |
分析枠組み |
||
産業組織 |
参入 |
製品差別化 |
|||
Smith and Venables (1988) |
西ヨーロッパ: ヨーロッパ共同体 (EC) |
関税、非関税障壁の撤廃と市場統合 |
不完全競争: ベルトラン型あるいはクールノー型の企業行動 |
独占的競争モデルによる参入 |
各商品に関して企業ごと |
Imada (1993) |
東南アジア: アセアン自由貿易地域 (AFTA) |
関税障壁の撤廃 |
完全競争 |
完全競争モデルによる参入 |
なし |
本研究 |
日本と韓国 |
関税、非関税障壁の撤廃 |
不完全競争: ベルトラン型の企業行動 |
なし |
企業ごと |
Smith and
Venables(1988)は、当時のヨーロッパ共同体(EC)の加盟国を対象として域内での関税、非関税障壁の撤廃ケースと、残存する関税、非関税障壁あるいは輸送コスト以外の要因による価格差別が排除される、という意味での市場統合ケースに関する分析を行った。分析枠組みとして、各企業が他の企業の価格を所与なものとして自らの利潤を最大化するように価格を設定するベルトラン型の企業行動をメインケースとしながらも、各企業が他の企業の生産数量を所与なものとして自らの利潤を最大化するよう自らの生産数量を設定するクールノー型の企業行動をも併せて分析対象にしている。また、新規企業の参入を考えない場合と独占的競争、つまりすべての企業の利潤がなくなるまで新規企業が参入する場合との双方に関して分析を行っている。製品の差別化に関しては、各企業が複数の商品[3]を供給し、企業は商品ごとに1種類の製品を供給し、それらの製品が企業ごとに差別化される、という枠組みを採用している。
一方Imada(1993)は、ブルネイを除く当時のASEAN加盟国における関税障壁の撤廃を想定し、完全競争の枠組みを用いて分析を行っている。完全競争モデルでは各企業は十分に小さいために各企業の価格設定が市場全体の価格決定に影響を与えることはなく、従って各企業は市場の価格を所与なものとして行動し、新規企業は企業の利潤がなくなるまで参入する。各企業の製品は完全代替の関係にある。つまり製品差別化は全く考慮されない。
本研究では日韓両国の現状から見て市場統合の分析は不必要であると考え、関税、非関税障壁撤廃の分析のみを行うことにした。またSmith and
Venables(1988)のモデルは非常に複雑であると同時に企業の生産行動に関して詳細な2次資料を必要とし、他地域への応用は困難である。事実Behar(1995)によってSmith and Venables(1988)のモデルが南米地域の貿易自由化の経済効果の計測に応用された際にも、企業や消費者の行動を定式化するために必要となる二次資料はSmith and
Venables(1988)で利用された、1980年代前半までの西ヨーロッパに関する調査が採用されている。そこで本研究では、より単純で日本と韓国の貿易の分析に応用可能な分析枠組みを新たに構築することにした。この分析枠組みでは、Smith and
Venables(1988)でもメインケースとして採用されたベルトラン型の企業行動を想定する。また、時間的、技術的な要因から新規企業の参入の分析は見送ることにした。また各企業は1種類の財を生産することを想定し、それらの財の間で差別化が行われていることを想定した。
3.分析枠組み
3−1.モデル
3−1−1.基本的な仮定
本章では、本研究の分析枠組みが示される。本分析で産業ごとに定式化される経済構造は、以下の特徴を有している。本分析で用いられるモデルは、消費者は最終消費財について、国産財と輸入財をある産業について別の財として取り扱う。またその分割された各市場について、それぞれの市場に参加する企業は互いに差別化された、つまり互いに不完全代替の関係にある財を1種類づつ生産する。日本と韓国の各企業は各市場でプライス・テイカーとして、つまり他の企業の行動を所与なものとして自らの超過利潤を最大化するように自らの価格を決定する。つまり、各企業はベルトラン流の企業行動をとると仮定する。日本と韓国の各産業の企業はそれぞれ完全に対称的であり、費用関数も同一の物を採用する。費用関数は限界費用曲線が右下がりとなるものを想定する。
3−1−2.消費者行動
本研究では、消費者の効用関数は各産業の製品についてそれぞれ独立に定義される。つまり、産業間の代替は行われない、と仮定する。それぞれの効用関数にはCES型が採用される。添字iを消費国、添字jを供給国としてUを効用、Xを財の数量、óを代替の弾力性、vを分配率とおくと、各産業の効用関数は以下のように定式化される。
(1)
ここから国産市場と輸入市場の需要関数を導出するわけだが、その方法はArmington(1979)で定式化され、同(1980)および同(1981)、最近ではImada(1993)でAFTAの経済効果の実証分析の際に応用された方法に従う。各市場の需要関数は、価格をPとしたとき以下のように定式化される[4]。
(2)
さらに供給者jが各市場で占める支出のシェアをsとしたとき、Pの産業全体での変化率は、各企業の供給価格の変化率のシェアで重みづけした加重平均、つまり
(3)
と考えることにする。ここで(2)式の両辺にPijを掛けて支出関数を作成すると、ある供給者kに対して支出の変化率は、(3)式を利用して以下のように分解することができる。所得をD、所得弾力性をι、価格弾力性をμとおくと、
(4)
ただし第4項のμはk国との交差弾力性を示す。ここで(4)式の左辺は支出の変化率を示し、右辺の第1項は所得効果、第2項はi国における供給国jの財自身の価格効果、第3項はi国における供給国j以外の財の価格効果、第4項は他のすべての財の価格効果をそれぞれ示す。Imada(1993)は、第4項の効果は非常に小さいために無視することができると考え、(4)式をXijの変化率の関数に変形している。それは、以下のように示すことができる。
(5)
ただし
この変化率の形で示された需要関数を再び通常の実数の形に変形し直すことで、需要関数を定式化することができる。ただし、本研究では所得効果は分析の対象とはならないので、積分時に積分定数として陽評価する分配率項と所得項は一つにまとめてBとあらわすことにする。このとき需要関数は、
(6)
と定式化される。ここでBは各産業について、i国におけるj国から供給される財市場の規模を示すものであると考えられる。それは、i国の消費者が各産業について用意する予算と消費者の選好によって決定されるものであると考えられる。ただし、i国で輸入品目および輸入数量の規制が行なわれている場合、それがこの変数に影響を与える可能性がある。
本研究では、消費者は国産品と輸入品の間で予算を振り分けた後、それぞれの市場で対称的な参加企業が1種類づつ生産した、互いに差別化された財を購入する。ここでもCES型の効用関数が導入され、各企業が直面する需要関数は、(2)式の導出と同様な考え方で導き出される。分配率をw、各企業の財の間の代替弾力性をρ、対称的な各企業が生産する財の価格をp、その数量をxとおくと、需要関数は、
(7)
のちに企業行動を定式化する際に、この各企業が直面する需要関数のpに対する偏微分が使用されるのでそれをここで先に定式化しておく。各企業が直面する需要関数のpに対する偏微分は、(6)式を定式化した過程と同様の考え方を用いて定式化される。各企業のシェアは企業数をnとしたとき、各企業が対称なことからすべての企業で1/nとなることに注意すると、需要関数のpに対する偏微分は、
(8)
ただし
3−1−3.企業行動
次に企業行動を定式化する。各企業は、ベルトラン流の企業行動、つまり互いの価格を所与として、自らの利潤を最大化するように各市場において自らの価格を設定する、という行動をとると仮定する。まず各企業の利潤関数を定式化する。各企業の各市場における利潤をΠ、従価表示された関税、非関税障壁と輸送コストの和をt、各企業の総生産量をQとおき、費用関数をQの関数としてC(Q)と定式化すると、各企業の利潤関数は、
(9)
ただし
ただしzは各企業のモデル外の世界への供給側から見た価格、qはその数量である。ベルトラン流に行動する企業は、各市場について各企業が限界収益と限界費用が等しくなるような価格設定を行うことで、その利潤を最大化する。つまり(9)式の右辺の第1項の各市場における価格pについて偏微分された値が0となるように、各企業はそれぞれの価格を決定する。こうして得られた等式を反応関数と呼ぶ。変数Qの各xに各企業の需要関数を代入し、(8)式を用いて(9)式の左辺をそれぞれ価格pについてそれぞれ偏微分し、それぞれpについて解くことで、反応関数として以下を得る。ただし、全ての企業が対称なことからp=Pが成立するので、それを使ってpをPに書き換えておく。
(10)
3−1−4.費用関数
最後に費用関数C(Q)を定式化する。費用関数は各企業の総供給量の関数であり、k次同次を仮定して以下のように定式化される。コンスタント項をAと置くと、
(11)
このkを規模弾性と呼ぶ。kが1より小さいとき、この費用関数の限界費用曲線は右下がりとなる。
3−3.データセット
以上のモデルを用いて実証分析を行なう際には、各産業について最終消費財市場における日韓両国の国産、輸入市場における価格と数量(PとX)、日韓両国の両国以外への世界への輸出の価格と数量(zとq)、日韓両国の企業数(n)と従価税の形で示された関税、非関税障壁および輸送コスト(t)から構成されるデータセットが必要となる。ここでは、本研究で用いた1993年時点でのそれぞれのデータの作成方法と出所について説明する。なお、本研究では日本の旧SNA産業48分類のうち、製造業21分類から「食品」、たばこ、「繊維」、「鉄鋼」、「非鉄金属」、「武器製造業」と「その他」を除いた15産業が分析の遡上にのせられる[5]。
価額PXは、日本の国内市場では日本の通商産業大臣官房調査統計局から発表されている「産業連関表1993年延長表」、韓国の国内市場では韓国の韓国銀行から発表されている1993年の「産業連関表」の民間最終消費需要の各項目から集計されている。日本の韓国からの輸入市場と韓国の日本からの輸入市場、および日本と韓国の輸出は、OECDの”Foreign Trade by Commodities” の1998年版から、1993年の日本からみた対韓国貿易のデータが集計されて使用されている。ただしこの数値は最終消費市場に関するものではないため、ここではなんらかの修正が必要となる。本研究では前出の日韓両国の産業連関表の輸入表から輸入全体に占める民間最終消費の割合を算出し、それをもちいて輸出入のデータを修正している。日韓両国の日韓両国以外の世界への輸出価額は、前出の日韓両国の産業連関表の輸出の各項目から集計されている。この数値は、既に紹介した日本と韓国の集計された輸入全体に占める民間最終消費の割合の平均値を用いて修正されている。分析で用いられるのは各企業ごとの数値であるため、各国、産業について企業が対称であるとする仮定からこの値を各企業数で除算したものを使用している。各数値は国際通貨基金(International
Monetary Fund: IMF)の”International Financial Statistics”(IFS)の1993年次の為替レートのデータを用いてドル建ての数値に換算されている。
企業数は、ハーフィンダール指数[6]の逆数が用いられている。日本のハーフィンダール指数は1995年版の日本統計年鑑の1993年時点の従業員数別の事業所数と生産価額の統計から、韓国の指数は1995年版の韓国統計年鑑の従業員数別の事業所数と生産価額の統計からそれぞれ算出している。ただし、こうして算出された企業数には中間財を生産する事業所も含まれているため、前出の日本、韓国双方の産業連関表から総需要に占める民間最終消費の割合を算出し、それを用いて修正を加えている。
関税および非関税障壁のデータは、世界貿易を応用一般均衡モデルを用いて分析しようとする国際的な試みであるGlobal Trade Analysis Project(GTAP)の第3版のデーターベースから採った[7]。このデータは、基本的には国際価格と各国の国内価格の差を計測したものである[8]。ただしこのデータベースでは「衣料およびその他繊維製品」と「皮革および同製品」の2産業についてはMultifibre Agreement(MFA)の影響を加味しているため、そのままでは本分析に利用することは難しい。そこで本研究では、それら2産業についてはPECC(1995)で計測された、1993年次におけるISIC3桁分類の(貿易量で)重みづけされていない平均従価関税のデータを利用した。PECC(1995)には非関税障壁の水準を示すデータとして、各分類内で何らかの規制を受ける品目の占める割合が計測されているが、本研究ではこのデータは利用しなかった。これらの数値は、実質的に工業製品を中心とした対日禁輸政策である韓国の輸入多角化制度を明示的には考慮に入れていない。輸入多角化制度は1999年に全面廃止されたが、均衡時点として想定した1993年時点では残存していた。しかしこれを従価表示の非関税障壁の形で示そうとする研究は見当たらず、またこの政策の性格がむしろ我々のモデル上で市場規模を示す変数Bに影響を与えるものと考えられ、またそれを変更するルールの定式化は難しいことから、今回はこの政策の定式化は見送らざるを得なかった。輸送コストは日韓両国で全産業について従価表示で一律5%を想定した。
3−4.カリブレーション
本章では、パラメータの決定に関する説明を行う。本研究ではシミュレーションに必要なパラメータのうち、各産業の価格弾力性と国産製品と輸入製品の間の代替弾力性、さらに各産業の規模弾性の3つについては他の研究で計測ないしは利用されたものを引用することにする。残された需要関数のコンスタント項(B)、費用関数のコンスタント項(A)と市場内における各企業の製品の間の代替弾力性については、データを導入した1993年時点で経済が均衡していたと仮定し、その値を定める。この一連の手続きをカリブレーションと呼ぶ。
価格弾力性と代替弾力性の2つについては、前出のGTAPの第4次データセットの各数値を利用した。規模弾性については、吉岡(1989)が1962年から1984年までの日本のデータを使用して、日本の旧SNA48産業分類の内製造業21分類に関して、「たばこ」と「武器製造業」を除いた19産業について推計した生産量に対してk次同時の生産関数を想定した規模弾性の数値の逆数を用いた[9]。本研究で分析される全産業についてこの値は1未満である。つまりいずれの産業も規模に対して費用逓減型の産業であり、限界費用曲線は右下がりとなる。なお、代替弾力性と規模弾性は日韓で共通の数値である。
市場全体の需要関数のコンスタント項(B)は、1993年における経済の均衡の仮定から、市場全体の需要関数(6)式の等式が成立するように定められる。費用関数のコンスタント項(A)は、均衡時点で各企業の超過利潤が0となるように、つまり(9)式の両辺が0となるように定められる。市場内の代替弾力性は、反応関数(10)式の等式が成立するように定められる。外生的に入された価格弾力性、国産品と輸入品の間の代替弾力性および規模弾性の値を表2に示しておく。価格弾力性について、日本の弾性値に比べて韓国のそれの方がより低い値が採用されているが、これは日本に比して韓国の方が消費者が製造業の産品への必需性が高いためと考えられる。日本では製造業の製品は既に多くの消費者が保有しているためにそれへの必需性が低く、それが価格弾力性をより高いものにしているものと考えられる。
表2:導入された弾性値
|
価格弾力性 |
代替弾力性 |
規模弾性 |
|
|
日本 |
韓国 |
|
|
衣服・その外繊維製品 |
0.72 |
0.44 |
4.4 |
0.975229 |
木材・木製品 |
0.98 |
0.44 |
2.8 |
0.987216 |
家具 |
0.98 |
0.44 |
2.8 |
0.966417 |
紙・パルプ |
0.98 |
0.44 |
1.8 |
0.991228 |
出版印刷 |
0.98 |
0.44 |
1.8 |
0.933053 |
化学 |
0.98 |
0.44 |
1.9 |
0.959233 |
石油・石炭製品 |
0.98 |
0.44 |
1.9 |
0.982801 |
ゴム・プラスチック製品 |
0.98 |
0.44 |
1.9 |
0.971628 |
皮革・同製品 |
0.98 |
0.44 |
4.4 |
0.957763 |
窯業・土石 |
0.98 |
0.44 |
2.8 |
0.94162 |
金属製品 |
0.98 |
0.44 |
2.8 |
0.962325 |
一般機械 |
0.9 |
0.56 |
2.8 |
0.977899 |
電気機械 |
0.9 |
0.56 |
2.8 |
0.960384 |
輸送機械 |
0.64 |
0.56 |
5.2 |
0.986631 |
精密機械 |
0.9 |
0.56 |
2.8 |
0.979624 |
出所)本文参照
3−5.試算の概要
本研究では、全ての関税および非関税障壁が撤廃された状況を想定し、撤廃後の価格、数量のそれぞれ変化前の値と比較した変化率を計測する。具体的には、需要関数(6)と反応関数(10)からなる連立方程式体系に各弾性値、コンスタント項、企業数、1企業あたりの圏外への輸出価額と関税、非関税障壁および輸送コスト(5%)を代入し、その連立方程式を価格と数量について解くことで関税および非関税障壁撤廃時のそれらの値を得ることができる。ただしこの連立方程式を解くためには、各国、産業についてすべての企業が対称的であるため、各企業の産出数量xと各市場での数量Xを企業数nで割った値が一致するという条件、つまり
(12)
を新たに連立方程式体系に加える必要がある。
また、ここでは計算を簡単にするため、需要関数(6)式と限界費用関数(C’)をテイラー展開を用いて均衡時点における各変数の近傍で1次近似することにした。これにより、分析の正確性が一定程度損なわれている可能性がある。
4.試算結果[10]
4−1.試算結果の要約
本章では、前章で紹介された分析枠組みで実行された日韓自由貿易圏の民間最終消費支出市場における政策効果の試算結果を要約することにする。まず数量ベースで見た変化率について説明し、次に価格ベースで見た変化率を概観する。表3に、数量ベースで見た試算結果を政策実行前と比較した変化率の形で示しておく。ここで第1列の消費とは日韓両国における日本の財と韓国の財をあわせた消費数量の変化率であり、供給とは日韓両国の対日供給と対韓供給をあわせた供給数量の変化である。この分析では日韓両国以外の国との取引は除外されているため、それらの消費数量の日韓両国を足しあわせた和と供給数量におけるそれは必ず等しくなる。それをここでは総流通量と呼び、その変化率が表3の最終列に報告されている。
表3:財の数量の変化率の試算結果
|
消費 |
|
供給 |
|
|
|
日本 |
韓国 |
日本 |
韓国 |
総流通量 |
衣服・その外繊維製品 |
0.04% |
0.15% |
-1.40% |
16.76% |
0.04% |
木材・木製品 |
0.01% |
-0.14% |
0.08% |
-0.71% |
-0.01% |
家具 |
0.02% |
-0.11% |
0.09% |
-0.38% |
0.00% |
紙・パルプ |
0.00% |
0.01% |
0.01% |
-0.04% |
0.00% |
出版印刷 |
0.02% |
0.14% |
0.08% |
-0.33% |
0.04% |
化学 |
0.01% |
0.03% |
0.03% |
-0.06% |
0.01% |
石油・石炭製品 |
0.00% |
0.01% |
0.01% |
-0.10% |
0.00% |
ゴム・プラスチック製品 |
0.06% |
0.28% |
0.08% |
0.10% |
0.08% |
皮革・同製品 |
0.00% |
0.24% |
-6.33% |
24.00% |
0.03% |
窯業・土石 |
0.31% |
-1.16% |
2.41% |
-6.11% |
-0.12% |
金属製品 |
0.07% |
-0.21% |
0.44% |
-1.73% |
0.01% |
一般機械 |
0.04% |
0.04% |
1.31% |
-0.64% |
0.04% |
電気機械 |
0.01% |
0.08% |
0.14% |
-0.93% |
0.02% |
輸送機械 |
0.00% |
0.00% |
0.00% |
-0.01% |
0.00% |
精密機械 |
0.07% |
0.23% |
1.01% |
-2.36% |
0.11% |
注)いずれも日韓両国内のみの取引量の変化率である
以下に試算結果の要約を行う。政策実行の結果、日本の数量で見た消費は、試算対象の15産業うち「紙・パルプ」、「石油・石炭製品」、「皮革・同製品」と「輸送機械」の4産業を除いた11産業で増加する、という結果を示した。最も増加率が高いのが「窯業・土石産業」で、「金属製品」、「精密機械」、「ゴム・プラスチック製品」がそれに次ぐ結果となった。消費量が増加しない4産業においても、消費量は不変であった。価格変化を考慮しない場合でも、日本の消費者にとってこの政策は有益であるといえる。
一方韓国の消費数量は、「木材・木製品」、「家具」、「窯業・土石」、「金属製品」の4産業で減少する結果となった。特に「窯業・土石」は1%を超える減少が見られた。しかしこの4産業以外では「輸送機械」を除いていずれも消費数量は増加傾向であり、しかもいずれの場合も増加率は日本の消費数量のそれと比べてはるかに大きくなっている。数量ベースで見る限り、この政策は韓国の消費者にとっても有益であると考えられる。
日本の供給数量は、「輸送機械」で不変、「衣服およびその他繊維製品」と「皮革・同製品」で大幅に減少した他はいずれの産業においても増加した。特に「窯業・土石」、「一般機械」、「精密機械」の3産業では、1%を上回る増加率が計測された。大幅な減少を記録した2産業を除いては、この政策は数量ベースで見て日本の供給者に利するものであるといえる。
韓国の供給数量は、「繊維製品」と「皮革・同製品」で供給数量がそれぞれ約17%と約24%の劇的な増加を示し、ゴム・プラスチック産業で微増した他は減少傾向である。特に「窯業・土石」、「精密機械」、「金属製品」の3産業では1%台後半から6%以上の大幅減少となった。劇的な増加を記録した2産業を除いて、この政策は、数量ベースで見る限り韓国の供給者にはある程度の負担を強いるものとならざるをえないといえよう。
日韓を合わせた総流通量は、「木材・木製品」と「窯業・土石」で減少し、「家具」、「紙・パルプ」、「石油・石炭製品」および「輸送機械」で不変だった他は増加を示している。特に「精密機械」と「ゴム・プラスチック製品」で比較的大きな増加率が計測された。数量ベースだけから観察しても、全体としてこの政策が日韓両国の民間最終消費市場の活性化に貢献するものであると考えられる。
次に価格ベースで見た変化率の試算結果を、表4に示しておく。
表4:財の価格の変化率の試算結果
供給国 |
日本 |
|
韓国 |
|
消費国 |
日本 |
韓国 |
日本 |
韓国 |
衣服・その外繊維製品 |
0.04% |
-10.84% |
-10.61% |
-0.36% |
木材・木製品 |
0.00% |
-28.08% |
-7.89% |
0.01% |
家具 |
0.00% |
-28.08% |
-7.88% |
0.01% |
紙・パルプ |
0.00% |
-5.41% |
-2.78% |
0.00% |
出版印刷 |
-0.01% |
-5.41% |
-2.75% |
0.03% |
化学 |
0.00% |
-8.70% |
-7.89% |
0.00% |
石油・石炭製品 |
0.00% |
-13.93% |
0.00% |
0.00% |
ゴム・プラスチック製品 |
0.00% |
-8.70% |
-7.90% |
0.00% |
皮革・同製品 |
0.27% |
-9.39% |
-19.73% |
-0.58% |
窯業・土石 |
-0.10% |
-25.60% |
-5.07% |
0.35% |
金属製品 |
-0.02% |
-21.65% |
-5.36% |
0.05% |
一般機械 |
-0.02% |
-13.24% |
-2.76% |
0.01% |
電気機械 |
0.00% |
-13.23% |
-2.75% |
0.03% |
輸送機械 |
0.00% |
-4.55% |
-0.94% |
0.00% |
精密機械 |
-0.01% |
-13.23% |
-2.74% |
0.04% |
日本から韓国への供給と、韓国から日本への供給価格は全て低下する。特に日本から韓国への供給価格は「木材・木製品」、「家具」、「窯業・土石」と「金属製品」では20%を超える大幅な価格低下が試算されている。「皮革・同製品」以外では日本から韓国への供給価格の変化率が韓国から日本の供給価格の変化率を上回っている。日韓両国の国内供給価格にも、政策の影響が観察される。日本の国内供給価格は、「出版印刷」、「窯業・土石」、「金属製品」、「一般機械」と「精密機械」で価格低下が、「衣服・その他繊維製品」と「皮革・同製品」で価格上昇が観察される。韓国の国内供給価格は、「衣服・その他繊維製品」と「皮革・同製品」で低下するが、「木材・木製品」、「家具」、「出版印刷」、「窯業・土石」、「金属製品」、「一般機械」、「電気機械」と「精密機械」では上昇する。
4−2.試算結果の考察
前章に示された趨勢は、主に次の3つの要因によって説明できる。第1は政策実行前の関税、非関税障壁の水準である。韓国の関税、非関税障壁が日本のそれに比べて均衡時点でほとんどの産業に関してより高い[11]ためにその削減水準が大きく、結果として韓国の消費数量は日本のそれに比べてより高い増加率を示し、日本の総供給量は増加を示し、韓国の総供給量が減少する結果が導出された。第2は日本と韓国の相互の供給市場の国産市場と比した規模である。例えば「衣服・その他繊維製品」と「皮革・同製品」で韓国の総供給が激増しているのは、韓国の対日供給市場の規模が非常に大きいためである。同様に日本の「窯業・土石」は、対韓供給市場が比較的大きいため、大きな政策効果が導出される結果となっている[12]。第3が右下がりの限界費用曲線による効果である。右下がりの限界費用曲線は、総供給量が増加する国、産業では限界費用を低下させ、それによる価格の低下を通じて総供給数量の増加を一層補強する。一方総供給量が減少する国、地域では、供給数量の減少に伴って限界費用は上昇し、価格上昇を通じて総供給量の低下に拍車がかかる事になる。消費数量が減少した韓国の4産業では、後者の効果によって韓国の国内供給がより1層減少し、それが関税、非関税障壁の撤廃による日本からの供給数量の増加を上回っている。
5.感応度分析
本研究では、外性的に決定された国産財と輸入財の価格弾力性と代替弾力性、規模弾性が重要な役割を果たす。それらの数値を変更して試算を再試行し、試算結果を比較することでモデルの頑健性を確かめようとすることを、感応度分析と呼ぶ。本章では「一般機械」、「電気機械」、「輸送機械」と「精密機械」の4つの産業について表2に示された3つの弾性値をそれぞれ20%削減して本編と同様の分析を行なった際の試算結果を報告し、前章で示された試算結果との比較を行う。数量ベースでの変化率の要約を、それぞれ表5、表6、表7に示す。
表5:価格弾力性が20%小さい場合
|
消費 |
|
供給 |
|
|
|
日本 |
韓国 |
日本 |
韓国 |
総流通量 |
一般機械 |
0.03% |
0.01% |
1.30% |
-0.67% |
0.02% |
電気機械 |
0.01% |
0.02% |
0.13% |
-0.99% |
0.01% |
輸送機械 |
0.00% |
0.00% |
0.00% |
-0.01% |
0.00% |
精密機械 |
0.16% |
-0.02% |
1.20% |
-2.91% |
0.11% |
注)表3に同じ
表6:代替弾力性が20%小さい場合
|
消費 |
|
供給 |
|
|
|
日本 |
韓国 |
日本 |
韓国 |
総流通量 |
一般機械 |
0.03% |
0.07% |
1.05% |
-0.48% |
0.06% |
電気機械 |
0.01% |
0.13% |
0.11% |
-0.68% |
0.03% |
輸送機械 |
0.00% |
0.00% |
0.00% |
-0.01% |
0.00% |
精密機械 |
0.07% |
0.34% |
0.82% |
-1.74% |
0.14% |
注)表3に同じ
表7:規模弾性が20%小さい場合
|
消費 |
|
供給 |
|
|
|
日本 |
韓国 |
日本 |
韓国 |
総流通量 |
一般機械 |
0.22% |
-0.06% |
1.54% |
-0.77% |
0.04% |
電気機械 |
0.05% |
-0.02% |
0.18% |
-1.08% |
0.04% |
輸送機械 |
0.00% |
0.00% |
0.00% |
-0.01% |
0.00% |
精密機械 |
0.16% |
-0.02% |
1.20% |
-2.91% |
0.11% |
注)表3に同じ
価格弾力性、代替弾力性の値を小さくした実験では変化率は小幅にとどまっており、これらの弾力性の変化に対するモデルの頑健生は確認されたといえる。規模弾性に関する実験の結果は劇的である。「輸送機械」を除いて増加していた韓国の財の消費量が減少に転じ、日本の消費数量と供給数量の増加幅が増え、韓国の供給数量の減少幅も拡大している。1より小さい変域での規模弾性の低下は限界費用曲線の(マイナスの)傾きがより急になることを示す。その結果生産量の拡大する日本の財の価格が標準ケースに比べてより安くなって供給数量もより拡大し、韓国側は供給数量の縮小が日本の場合と全く逆のメカニズムを通じてその程度をより大きくしたものと考えられる。日本市場では関税、非関税障壁の撤廃による輸入財の価格低下と国産財の規模の経済性に由来する価格低下が重なって消費数量がより拡大しているが、韓国では国産財の価格上昇による消費数量の減少分が輸入財の価格低下による消費数量の増加を上回り、韓国の総消費数量を低下させている。
6.今後の研究への課題
本章は、本研究で技術的、時間的制約から見送らざるを得なかった課題を3つに整理し、本稿を締めくくろうとするものである。3つの課題とは、新規参入の定式化、より厳密なシミュレーションの手法の導入および日本、韓国の両市場以外の市場に与える影響の計測である。
本研究で採用されたモデルの経済構造には、いくつかの非現実的な仮定が採用されている。ここでは以下の2つを指摘し、その改善の展望を示しておく。まず、本研究では企業行動に関してベルトラン流、つまり各企業が他の企業の価格を所与として行動するという仮定が置かれていることが挙げられる。この仮定では、各企業が輸入品の価格が関税および非関税障壁の低下によって下がることを想定し、自分の国内市場を維持するために価格を引下げる、といった動学的な行動は定式化できない。この行動を定式化するには先導者と追随者を想定して企業行動を考えるモデルや、近年盛んになっているゲーム理論を用いて企業行動を定式化するモデルを応用することが必要となる。次に、新規企業の参入を定式化していないことが挙げられる。Smith and Venables(1988)においても、新規企業の参入を想定した場合に関税および非関税障壁の撤廃がより大きな経済効果をもたらすことが報告されている。新規企業の参入を定式化するためには、Krugman(1979)および同(1980)で貿易理論に応用された長期的な独占的競争モデル、つまり各企業の利潤が0になるまで新規企業が参入する、という考え方を導入する必要がある。
本研究ではシミュレーション時の計算を容易にするため、需要関数と限界費用関数をテイラー展開を用いて1次近似している。これがシミュレーションの正確性を損ねている可能性がある。
本研究では、費用関数に日韓の取り引き以外の変数が導入されているが、それ以外は日本と韓国以外の地域との取り引きは一切考慮されていない。標準的な貿易理論では、関税、非関税障壁撤廃による貿易創出効果以外に、自由貿易圏の圏外との貿易関係が圏内とのそれに置きかえられてしまう貿易代替効果の存在が極めて重要とされている。Smith and
Venables(1988)やImada(1993)などの部分均衡分析を用いた関税、非関税障壁撤廃の先行研究では、当該地域以外を全て単一の供給者、消費者としてとらえている。本研究の対象は日本と韓国だけであり、貿易代替効果はさほど大きくないかもしれないが、その計測と同時に日本や韓国と多くの取り引きがある、あるいは日本や韓国と類似の産業が盛んな国や地域(例えばアメリカや台湾など)に対する政策の影響を計測することは興味深い課題であるといえる。
以上
補論1:繊維産業の分析
本論で規模弾性の数値を引用した吉岡(1989)では、「繊維および同製品」で規模に対して収穫逓増の費用関数が計測されている。本論の分析枠組みにそのまま収穫逓増の費用関数を適用すると、カリブレーション時に市場内の代替弾力性がマイナスになってしまう。これによりモデルが分析に適さないと考えられることから本論では分析を見送った。ここでは「繊維及び同製品」で、新規企業の参入を想定した完全競争市場の仮定を用いた同産業の分析の概要と結果が報告される。
完全競争市場では、各企業の超過利潤が0になるまで新規企業が参入する。このとき、結果として各企業の産出量は常に限りなく小さくなり、限界費用曲線は価格に対して水平となる。この状況で従価表示の関税、非関税障壁及び輸送コストが低下した場合、その低下分は全て消費者価格に添加される。よって、本編と同様に定式化された市場全体の需要関数に、関税、非関税障壁撤廃後の価格を直接代入することで政策変化後の価格と数量を計測することができる。
計測の祭に使用した価格弾力性と代替弾力性の値を表1に、試算結果を数量の変化率と価格の変化率に分けて表2と表3にそれぞれ示す。消費者行動の定式化とそのコンスタント項の決定およびデータとパラメータの出所はすべて本編と同様である。関税、非関税障壁は、本論と同様の理由からPECC(1995)が選択されている。この産業では両国ともに非関税障壁が存在することが同研究で示されており、それがこの分析では考慮されていないことに注意する必要がある。
表1:導入された弾性値
価格弾力性 |
|
代替弾力性 |
|
日本 |
韓国 |
|
|
0.72 |
0.44 |
2.2 |
|
出所)本文参照
表2:財の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.18% |
23.86% |
-0.10% |
韓国 |
18.44% |
-0.20% |
0.66% |
需要計 |
0.09% |
0.05% |
0.08% |
注1)いずれも日韓両国内のみの取引量の変化率である
注2)行方向が供給サイドを、列方向が消費サイドを示す
表3:財の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-9.35% |
韓国 |
-7.48% |
0.00% |
注)行方向が供給サイドを、列方向が消費サイドを示す
数量では、日本、韓国ともに消費数量が微増し、韓国の供給数量が増加して日本のそれが減少する。日韓の間の需給数量は共に2割程度増加し、一方日韓ともに国内供給は微減する。総流通量は微増する。価格では、日韓の間の需給の価格が1割程度減少する。
以上
補論2:より詳細な試算結果
ここでは、本論で割愛したより詳細な試算結果を報告することにする。
1.衣服・その他繊維製品
「衣服・その他繊維製品」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表1と表2に示す。
表1:「衣服・その他繊維製品」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-1.43% |
46.19% |
-1.40% |
韓国 |
44.42% |
-0.34% |
16.76% |
需要計 |
0.04% |
0.15% |
0.04% |
注1)いずれも日韓両国内のみの取引量の変化率である
注2)行方向が供給サイドを、列方向が消費サイドを示す
表2:「衣服・その他繊維製品」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.04% |
-10.84% |
韓国 |
-10.61% |
-0.36% |
注)行方向が供給サイドを、列方向が消費サイドを示す
本論でも触れた通り、この産業は、本研究において最も劇的な政策効果が現れたものの1つである。その最大の要因は、韓国にとって日本の最終消費市場が他の産業の場合と比べて相対的に大きな取引先であり(本論における市場全体の需要関数のコンスタント項Bを比較すると、韓国の国内供給市場よりも対日供給市場の方が大きい)、韓国の対日供給増加がその総供給量の増加に大きく寄与し得ることと、日本の従価関税にやや大きな値(12.03%)が採用されたことによるものである[13]。もう1つ重要な点は、韓国の国産財消費市場の価格低下に端的に表される、韓国の供給の拡大による限界費用の低下である。それが韓国の総供給をより一層増加させる結果となっている。逆に日本の国内供給価格は増加しており、日本の総供給量の減少幅は韓国の場合と逆のメカニズムでより一層拡大している。
2.木材・木製品
「木材・木製品」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表3と表4に示す。
表3:「木材・木製品」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.01% |
77.82% |
0.08% |
韓国 |
22.07% |
-0.85% |
-0.71% |
需要計 |
0.01% |
-0.14% |
-0.01% |
注)表1の注に同じ
表4:「木材・木製品」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-28.08% |
韓国 |
-7.89% |
0.01% |
注)表2の注に同じ
「木材・木製品」は、総流通量が減少する2つの産業のうちの1つである。その要因は、韓国の対国内供給価格の微増にから観察される。これは日本の対韓供給の急増が韓国の総供給を減少させた結果、その限界費用を増加させてしまったこと示しており、それが韓国の供給価格を増加させてその総生産量の低下に拍車をかけたことによるものと考えられる。一方日本の総供給は限界費用を明確に減少させるほどは増加しておらず、日本の総供給の増加を補強するメカニズムはほとんど働いていなかった。
3.家具
「家具」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表5と表6に示す。
表5:「家具」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.04% |
78.04% |
0.09% |
韓国 |
22.02% |
-0.66% |
-0.38% |
需要計 |
0.02% |
-0.11% |
0.00% |
注)表1の注に同じ
表6:「家具」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-28.08% |
韓国 |
-7.88% |
0.01% |
注)表2の注に同じ
韓国の関税、非関税障壁が高いため、日本から韓国へ向けての供給が増加し、韓国の総供給量がその影響を受けて減少している。韓国で消費量が減少しているが、これには韓国の供給財の価格上昇から観察される韓国の総供給の限界費用上昇も寄与している。
4.紙・パルプ
「紙・パルプ」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表7と表8に示す
表7:「紙・パルプ」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
0.00% |
9.68% |
0.01% |
韓国 |
5.00% |
-0.05% |
-0.04% |
需要計 |
0.00% |
0.01% |
0.00% |
注)表1の注に同じ
表8:「紙・パルプ」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-5.41% |
韓国 |
-2.78% |
0.00% |
注)表2の注に同じ
両国とも当初から関税、非関税障壁が小さく、数量、価格ともに変化率は小さい。韓国への対日供給量の増加が日本の対国内供給量を減少させるほど伸びておらず、日本の供給者にやや有利な試算結果となった。
5.出版印刷
「出版印刷」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表9と表10に示す。
表9:「出版印刷」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.01% |
9.15% |
0.08% |
韓国 |
4.94% |
-0.63% |
-0.33% |
需要計 |
0.02% |
0.14% |
0.04% |
注)表1に同じ
表10:「出版印刷」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
-0.01% |
-5.41% |
韓国 |
-2.75% |
0.03% |
注)表2に同じ
日本の対韓供給の増加に押されて韓国の総供給量が減少しているが、同時に韓国の総消費も拡大している。これは韓国の国内供給市場に比して日本の対韓供給市場が比較的大きく、日本の対韓供給の変化率の増加が韓国の総消費、総供給により大きな影響を与えやすい事が原因である。さらにこの産業の規模弾性が小さく、日韓で限界費用の増減が生じやすいことも、この数値変化に反映されている。また、この産業では本文で触れた韓国の輸入多角化規制や他の輸入規制が影響していることも考えられ、それを考慮した場合政策効果はより大きくなる可能性がある。
6.化学
「化学」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表11と12に示す。
表11:「化学」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.01% |
16.37% |
0.03% |
韓国 |
14.98% |
-0.16% |
-0.06% |
需要計 |
0.01% |
0.03% |
0.01% |
注)表1に同じ
表12:「化学」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-8.70% |
韓国 |
-7.89% |
0.00% |
注)表2に同じ
政策実行による影響はさほど大きくない。両国の対国内供給価格が変化していない、つまり限界費用が明確に変化するほど日韓の総供給量が変化しなかったことがその要因といえる。
7.石油・石炭製品
「石油・石炭製品」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表13と表14に示す。
表13:「石油・石炭製品」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
0.00% |
26.38% |
0.01% |
韓国 |
0.00% |
-0.10% |
-0.10% |
需要計 |
0.00% |
0.01% |
0.00% |
注)表1に同じ
表14:「石油・石炭製品」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-13.93% |
韓国 |
0.00% |
0.00% |
注)表2に同じ
日本に明示的な関税、非関税障壁が導入されておらず、韓国市場に政策効果が集中している。総流通量を変化させるほどの政策効果は計測されなかった。
8.ゴム・プラスチック
「ゴム・プラスチック」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表15と表15に示す。
表15:「ゴム・プラスチック」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.06% |
14.99% |
0.08% |
韓国 |
14.93% |
-1.53% |
0.10% |
需要計 |
0.06% |
0.28% |
0.08% |
注)表1に同じ
表16:「ゴム・プラスチック」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-8.70% |
韓国 |
-7.90% |
0.00% |
注)表2に同じ
この産業は、日本と韓国の総供給量がともに増加する唯一のものである。価格の変化率は前出の「化学」の事例と大差ないが、数量の変化率の値はやや大きなものとなっている。これは日韓双方の輸入市場が「化学」の場合よりも大きいためで、相互供給の大きな産業ほど政策の効果が大きくなることの1つの例を示しているものといえる。
9.皮革・同製品
「皮革・同製品」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表17と表18に示す。
表17:皮革・同製品の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-6.41% |
37.74% |
-6.33% |
韓国 |
82.31% |
-0.12% |
24.00% |
需要計 |
0.00% |
0.24% |
0.03% |
注)表1に同じ
表18:皮革・同製品の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.27% |
-9.39% |
韓国 |
-19.73% |
-0.58% |
注)表2に同じ
本論にも触れられた通り、「皮革・同製品」は、「衣類・その他繊維産業」と並んで最も劇的な政策効果が計測された産業である。その要因も「衣類・その他繊維産業」と同様である。ただ、日本の韓国の供給財の消費が大幅に増えたにもかかわらずその総消費量が不変であることが注目される。韓国の対日供給の増加がより著しいことと、規模弾性に「衣料・その他繊維産業」よりも小さな値が採用されており、日本の総供給量の減少による限界費用の増加とそれにともなう価格上昇が衣料・その他繊維産業の場合と比べてより大きいことが、その要因といえる。
10.窯業・土石
「窯業・土石」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表19と表20に示す。
表19:「窯業・土石」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.39% |
64.35% |
2.41% |
韓国 |
13.52% |
-8.77% |
-6.11% |
需要計 |
0.31% |
-1.16% |
-0.12% |
注)表1に同じ
表20:「窯業・土石」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
-0.10% |
-25.60% |
韓国 |
-5.07% |
0.35% |
注)表2に同じ
「窯業・土石」は、政策の影響が他の産業と比較して大きいと同時に、総供給量の低下が最も著しい産業である。政策効果が大きいことは比較的韓国の政策実行前の関税、非関税障壁が大きい(36%)ことと、韓国の日本の財の消費市場が当初から大きいことに由来している[14]。総流通量の低下は、規模弾性が小さいことが韓国の供給の限界費用を上昇させる効果が日本の供給の限界費用を低下させる効果を上回ったことが原因である。
11.金属製品
「金属製品」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表21と表22に示す。
表21:「金属製品」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.07% |
58.46% |
0.44% |
韓国 |
16.48% |
-2.38% |
-1.73% |
需要計 |
0.07% |
-0.21% |
0.01% |
注)表1に同じ
表22:「金属製品」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
-0.02% |
-21.65% |
韓国 |
-5.36% |
0.05% |
注)表2に同じ
「金属製品」は、韓国における消費数量が減少する産業の1つである。韓国の供給側で限界費用の上昇が見られることがその主因である。
12.一般機械
「一般機械」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表23と表24に示す。
表23:「一般機械」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.04% |
36.43% |
1.31% |
韓国 |
7.66% |
-0.68% |
-0.64% |
需要計 |
0.04% |
0.04% |
0.04% |
注)表1に同じ
表24:「一般機械」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
-0.02% |
-13.24% |
韓国 |
-2.76% |
0.01% |
注)表2に同じ
政策効果はやや大きい。日本の対韓供給市場が他の産業と比較して相対的に大きいことが、その主因である。
13.電気機械
「電気機械」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表25と表26に示す。
表25:「電気機械」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.02% |
35.89% |
0.14% |
韓国 |
7.67% |
-1.25% |
-0.93% |
需要計 |
0.01% |
0.08% |
0.02% |
注)表1に同じ
表26:「電気機械」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-13.23% |
韓国 |
-2.75% |
0.03% |
注)表2に同じ
両国の輸入市場が一般機械より小さいため、両国の総供給数量の変化率は小さくなっている。韓国の輸入多角化規制が日本の対韓供給市場を小さくしている可能性があり、それを考慮した場合、試算結果が変わる可能性がある。
14.輸送機械
「輸送機械」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表27と表28に示す。
表27:「輸送機械」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
0.00% |
23.62% |
0.00% |
韓国 |
4.90% |
-0.02% |
-0.01% |
需要計 |
0.00% |
0.00% |
0.00% |
注)表1に同じ
表28:「輸送機械」の価格の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
0.00% |
-4.55% |
韓国 |
-0.94% |
0.00% |
注)表2に同じ
総消費、総供給双方について、政策効果はほとんど計測されない。これは元来両国の関税、非関税障壁が小さいと同時に、両国の輸入市場が極端に小さいことが原因である。「電気機械」の場合と同様、韓国の輸入多角化規制が日本の対韓供給市場を小さくしている可能性がある。
15.精密機械
「精密機械」の詳細な数量および価格の変化率の試算結果を表29と表30に示す。
表29:「精密機械」の数量の変化率の試算結果
|
日本 |
韓国 |
供給計 |
日本 |
-0.14% |
34.02% |
1.01% |
韓国 |
7.51% |
-3.16% |
-2.36% |
需要計 |
0.07% |
0.23% |
0.11% |
注)表1に同じ
表30:「精密機械」の価格の試算結果
|
日本 |
韓国 |
日本 |
-0.01% |
-13.23% |
韓国 |
-2.74% |
0.04% |
注)表2に同じ
「精密機械」は、他産業と比較してやや大き目の政策効果が働く産業の1つである。特に総供給量の増加率は最高の増加率を記録した。「一般機械」と類似の価格変化率だが、総流通量は増加している。これは、日本の対韓供給市場が大きいためである。
以上
参考文献
[1] 経済企画庁調整局(1997) “APEC貿易自由化の経済効果”
[2] 吉岡完治 (1989) 「日本の製造業・金融業の生産性分析」 東洋経済新報社
[3] Armington, Paul S. (1979) ”A Theory of
Demand for Products Distinguished by Place of Production” ‘International
Monetary Fund Staff Papers 16’ International Monetary Fund PP159-PP177
[4] Armington, Paul S. (1980) “The Geographic
Pattern of Trade and the Effects of Price Changes” ‘International Monetary Fund
Staff Papers 17’ International Monetary Fund PP179-PP197
[5] Armington, Paul S. (1981) “Adjustment of
Trade Balances: Some Experiments with a Model of Trade Among Many Countries”
‘International Monetary Fund Staff Papers 20’ International Monetary Fund
PP488-PP517
[6] Behar, Jaime (1995) “Measuring the
Effects of Economic Integration for the Southern Cone Countries: Industry
Simulations of Trade Liberalization” ‘The Developing Economies 33’ Institute
for the Developing Economies PP3-PP31
[7] Gasiorek, Michael and Smith Alasdair
(1989) “Tariffs, Subsidies and retaliation” ‘European Economic Review 33’
Elsevier Science Publishers PP480-PP489
[8] Hertel, Thomas W. eds. (1997) “Global
Trade Analysis” Cambridge University Press
[9] Krugman, Paul R. (1979) “Increasing
Returns, Monopolistic Competition, and International Trade” ‘Journal of
International economics 9’ Elsevier Science Publishers PP469-PP479
[10] Krugman, Paul R. (1980) “Scale
Economies, Product Differentiation and the Pattern of Trade” ‘The American
Economic Review 70’ Johnson Reprint PP950-PP959
[11] Pacific Economic Cooperation
Council(PECC) (1995) “Survey of Impediments to Trade and Investment in the APEC
Region”
[12] Imada, Pearl (1993) “Production and
Trade Effects of an ASEAN Free Trade Area” ‘The Developing Economies 31’
Institute for Developing Economies PP3-PP23
[13] Smith, Alasdair and Venables, Anthony J.
(1988) “Completing the Internal Market in the European Community” ‘European
Economic Review 32’ Elsevier Science Publishers PP1501-PP1525
[14] Venables, Anthony J. (1985) “Trade and
Trade Policy with Imperfect Competition: The Case of Identical Products and
Free Entry” ‘Journal of International Economics 19’ Elsevier Science Publishers
PP1-PP19
[15] Venables, Anthony J. (1987) “Trade and
Trade Policy with Differentiated Products: A Chamberlinian-Ricardian Model”
‘The Economic Journal’ Macmillan
PP700-PP717
[16] The Global Trade Analysis Project (http://www.agecon.purdue.edu/gtap/)
[1] その事例として、例えばAFTAではImada(1993)、APECでは経済企画庁(1997)が挙げられる
[2] この分析で用いられたモデルは、Venables(1985)(1987)で開発されたものの応用である
[3] 商品とは、例えば家電産業の場合は冷蔵庫や洗濯機といった産業内部での分類である。Smith and Venables(1988)では、”model”という言葉を用いている
[4] 詳細はArmington(1979)補論1を参照
[5] 本研究で分析されない6産業のうち「たばこ」と「武器製造業」は、あとで言及する規模弾性の値を得ることができなかった。「鉄鋼」と「非鉄金属」は、最終消費財市場が殆ど存在しないことから、分析の対象から外すことにした。「繊維製品」については、補論1で分析を行っている
[6] ある産業について、企業数をn、i番目の企業のシェアをSiとおいたとき、ハーフィンダール指数はそれをhとおくと、と定式化される。完全な独占の時、hは1となる。
[7] このデータセットは、Hertel (1997)で発表されている。現在ではインターネット上で第4次データセットが公表されているが、関税および非関税障壁のデータは、執筆時点で筆者には入手不可能であった
[8] 詳細はHertel(1997)を参照
[9] 詳細は吉岡(1989)の第1章およびその注4を参照
[10] より詳細な試算結果は、補論2を参照
[11] 導入された関税、非関税障壁のデータでは、「皮革・同製品」を除いたすべての産業で韓国の方が高い値を示している
[12] 「土石・窯業」の日本の対韓供給価額は、最終消費財として以外の輸出も含んだ数値で国内への最終消費財市場への供給価額の約3分の1にのぼった
[13] 韓国の従価表示の関税障壁は日本より大きく、日本の韓国への供給も増加を示しているものの、韓国の輸入財市場が小さいため、日本国内での韓国財との競合による国内への供給量が韓国への供給増を上回り、日本の総供給を減少させている