4.推計結果の比較検討


4.1 検討結果
4.2寄与度の順序
4.3 景気循環の影響
4.4 最近のTFP成長率

4.1 検討結果

前節であげた3点について、さらに詳しく考察するとともに、同様な分析をし ている中谷(1993)、経済企画庁(1994)、(1995)と比較すると、次のように結論 することができる。
  1. 高度成長期以降、経済成長率に占める割合は(1)資本寄与、(2)TFP成長率、 (3)労働力寄与の順に大きかったと考えられる。ただし、経済企画庁(1994)の ようにTFP成長率が資本寄与を上回っているとする研究もある。
  2. 今回の推計は、景気循環の影響についての処理に問題があるため、 資本寄与は過大評価、TFP成長率は過小評価になっている可能性が大きく、 このため資本寄与は当推計よりも小さいものとして、またTFP成長率は 当推計よりも大きいものとして理解することが適当である。
  3. 最近(86-92年)になって経済成長率に占めるTFP成長率の割合は増加している。 これは他の研究、中谷、経済企画庁(1994),(1995)も同様に指摘していることである。

4.2寄与度の順序

まず第1点目について検討する。

隅田(本稿) 中谷(1993) 経企庁(1994)
期間 1971-92 1965-90 1966-90 経済成長率 4.072(100.1) 5.30(100.0) 5.45 (100.0) 資本寄与 3.000(73.7) 3.03(57.2) 2.30(42.2) 労働力寄与 0.296(7.3) 0.42(7.9) 0.41(7.5) TFP成長率 0.776(19.1) 1.85(34.9) 2.74(50.3)

ここに掲げた表より、 今回の推計と中谷(1993)の結果(表5) と経済企画庁(1994)の結果(表6)を比較する。 中谷は資本寄与(57.2%)、TFP成長率(34.9%)、労働力寄与(7.9%)で 本稿の推計と順序は同一である。 しかし、 経済企画庁はTFP成長率(50.3%)、資本寄与(42.2%)、労働力寄与(7.5%) とTFP成長率が資本寄与を上回っている。

ここでは、この原因について詳しく吟味するほど詳細なデータが 中谷(1993)にも経済企画庁(1994)にもともに 記載されていないので、 どちらが正しいのか判断できない。 したがって、上で述べたような、 経済成長率に占める割合の大きさの順序は (1)資本寄与、(2)TFP成長率、(3)労働力寄与であると 中谷の結果と本稿の結果から考えるが、 経済企画庁(1994)の結果のようにTFP成長率が資本成長率を 上回っているという研究もある、 というような両論併記の結論となった。

3つとも基本は成長勘定の基本方程式を用いた分析なのだが、 推測するにこの原因は 資本分配率・労働分配率の求め方、統計データの違いのためであると考える。 しかし、中谷(1993)と経済企画庁(1994)のように 期間が1年しか違わないにも関わらず、 経済成長の要因分解がその方法によって 違った結果がでてしまうのは、 この要因分解の方法の問題点としてあげられる。


4.3 景気循環の影響

景気循環の影響を考えると、 資本寄与は安定し過ぎ、TFP成長率は不安定過ぎる。 この理由は次に述べる通りである。

資本寄与が安定しているのは、 工場、機械の累積である資本ストックが景気が悪化したからといって すぐに処分したりすることができない性質を反映していると考えられるからである。 だが、実際には稼働率の低下などにより、 景気に合わせて調整が起きているはずである。 にもかかわらず、この稼働率は資本ストックには入っていない。 それでは、この稼働率の低下はどこにいくかというと TFP成長率に入ってしまうのである。 このことはTFP成長率が次の(7)式から求められることから明かである。

           .     .       .              .
     (7)   T/T = Y/Y - a(K/K) - (1 - a)(L/L)

つまり、資本寄与 a(K/K)には稼働率は入っていないため 資本寄与は減少しないのでその分、 経済成長率Y/Yから引かれ過ぎてしまい 結果としてTFP成長率が過小評価されることになる。

このことを経済成長率が最も低下した74年を具体例に用いて示すと次のようになる。

まず資本の稼働率 x をいれたモデルに

            .    .        .                .
            T/T =Y/Y - a (K/K)*x - (1 - a)(L/L)
1974年のデータ、 Y/Y = -0.61975,a(K/K)=3.63249,(1-a)(L/L)=-2.48772をそれぞれ代入し 稼働率を表す x を100%を示す1から、50%を示す0.5まで変化させると次のような 結果が得られた。


稼働率 x 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 資本寄与 a(K/K) 3.63 3.27 2.91 2.54 2.18 1.82 TFP成長率 T/T -1.76 -1.40 -1.04 -0.67 -0.31 0.05
つまり、稼働率が変化しない時(稼働率1)よりも稼働率が低下した時のほうが 資本寄与は低く、TFP成長率は高くなるのである。 景気後退時には稼働率が低下すると考えられるので 実際のTFP成長率は今回の推計よりも高く、 資本寄与は低いと考える。 この問題を回避するために、粗い方法ではあるが、 Yのデータの5期移動平均をとることにより景気の影響を除いたのが、 経済企画庁(1995)の図2である。 要因分解の方法が本稿とは異なるが、 こちらの方がTFP成長率が高く、 資本寄与は低めにでていて、より現実的であると考える。 特に本稿の結果では92年のTFP成長率はマイナスであるが 経済企画庁の結果では高いプラスにでている。

4.4 最近のTFP成長率

先に第11循環においてはTFP成長率が他の期よりも高くなっていると述べた。 このことは他の研究結果においても同様である。 表5の中谷(1993)の1981-90年 のTFP成長率が経済成長率にしめる構成比は 35.5%と前の期の73-80年23.2%と比べて高くなっている。 表6の経済企画庁(1994)でも、85-90年は45.2%であり、 前の2期、73-79年43.4%、79-85年44.1%よりも高くなっている。 図2の経済企画庁(1995)では、日本の経済成長では最近はTFP成長率 による部分が大きいと述べている。

今回の本稿の推計でも 確かに表4に見られるように 1986年から92年の第11循環でのTFP成長率の寄与率は拡張期24\%、後退期22\%と、 それ以前よりもTFP成長率は高くなっており、 この点は他の諸研究と同様である。 もっとも、 他の研究結果と比べると、経済成長率に対する相対的な寄与度自体は 本稿の推計結果は比較的小さいものにとどまっている。