第1章 はじめに

 近年、コーポレート・ガバナンスにおける機関投資家の役割が強 まっている。米国では、株式保有の増加を背景にして以前から機関投資家によるコー ポレート・ガバナンスは積極的に行われていた。それに対して、日本においては、長 い間メインバンクによるモニタリングが機能していたため、従来コーポレート・ガバ ナンスにおける機関投資家の役割は皆無に等しかった。そのため、日本のコーポレー ト・ガバナンスを論じる上で、この観点から考察を行ったものは少ない。しかし、企 業の資金調達における変化からメインバンク機能が低下し、日本のコーポレート・ガ バナンスに空白が生じる一方、近年の資産運用における競争の激化を背景に、生命保 険、投資信託、年金基金などの機関投資家がコーポレート・ガバナンスに関与し始め ている。さらに、金融システムの変化により、今後、機関投資家における株式保有が 増加し、その空白を補うものとして日本のコーポレート・ガバナンスにおける機関投 資家の役割が大きくなることが予想される。

 このような現状を踏まえ、本稿では、コーポレート・ガバナンス について「機関投資家」に焦点を当てて論じている。具体的には、第2章で米国にお いて機関投資家がコーポレート・ガバナンスへの影響力を強めた背景、影響力の強ま りを示す行動とそれが企業経営(特に取締役会)に与える影響力の変化を調べること により、米国では機関投資家がコーポレート・ガバナンスにおいて大きな役割を担っ ていることを明らかにする。続いて第3章では、視点を日本に移し、日本の機関投資 家(生命保険、投資信託、年金基金)についても、株式保有の状況やコーポレート・ ガバナンスに対して影響力を強め始めた背景、今後予想される制度的動きなどから、 コーポレート・ガバナンスにおける重要性を強めていく可能性が大きいことを確認す る。第4章では、第2章で述べた米国のコーポレート・ガバナンスと第3章で述べた日 本のそれとを比較・検討することで、両国のコーポレート・ガバナンスにおける相違 点についてまとめる。さらに、それらの相違点から、今後日本において機関投資家に よるコーポレート・ガバナンスを発展させるにはどのような課題があるか、というこ とについて考察する。



Next