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概要

1.ここ約30年間の東アジア(NIEs,ASEAN,日本)の高成長は,日本を除くと専ら資本および労働の投入量増大によるものである一方,TFPの寄与が低いため,今後高成長の持続は困難である,とする有名な主張(Krugman,1994)がある.本稿は,そうした見方の妥当性について実証的に再検討を行った.

2.まず,各国の時系列データにもとづく成長会計の手法による分析を行ったところ,従来指摘されていた計測技術上の問題点(資本・労働力の稼働率一定,資本ストック推計方法上の問題等)を考慮して再計測しても,経済成長のほとんどが依然として資本および労働の投入増大によって説明される,との結果が得られた.TFP寄与が小さかった主な理由としては,東アジア経済は発展段階的に見て,その投資内容が大きくTFPに寄与するまでに達していなかったことが考えられる.

3.一方,各国のクロスカントリー・データにより成長の源泉を分析した場合には,新古典派経済成長理論が想定するような収束現象(初期段階の所得水準が低い国ほどその後の経済成長率が高まる現象)が東アジアでは見られなかった.これは,資本および労働の投入増大が高成長の主因とは言えず,その他の何らかの主要な要因が関わっていることを示唆している.

4.上記2.および3.のように一見矛盾する結果が得られたのは,労働の質的側面がいずれの場合にも十分考慮されていないことに原因がある.そこで,人的資本の質(教育の普及および教育水準)を明示的にとり入れて成長要因を分析すると,東アジアでは,それが初期段階(1960年初)で高水準であり,かつ1990年にかけてその上昇が顕著であったことが大きく寄与したことが判明した.

5.以上の経験を踏まえると,高い経済成長を達成するためには,教育の普及とその水準の向上,さらには経済の高い対外開放度の維持,などが重要といえる.





Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST