第5章

  分析結果の考察および評価

  −格付け、株価および株価ボラティリティとの対比−

   


5.1 判別分析の結果の統計的有意性
 

まず、表1の線形判別関数による判別分析の結果を参照してもらいたい。
最初に見るべき項目は、ボックスのM検定である。判定欄が無印、即ちP値が十分大きければ、「分散は等しくない」という対立仮説を棄却して、「分散は等しい」という帰無仮説を受け入れる事になる。今回はP値が1.38128E-19(限りなくゼロに近い)であり、とても小さい。よって等分散では無いと出ている。しかしM検定は検出力が高く、有意差が出易い傾向にある事が指摘されている。検定不能でない限りは分析を続けても大丈夫であるので、このまま続ける。

次に判別関数式は、

 

 但し:自己資本比率 ROA ROE代替指標 :経常収支率

   :有価証券投資効率 :リスク管理債権比率

 

となった。各係数(判別係数)を比較してみると、一番係数が大きいのはROAである。即ち、ROAが最も倒産・非倒産の判別に影響していると言える。その次にリスク管理債権比率、自己資本比率、有価証券投資効率と説明力が強い。ROEは殆ど判別に影響していない、と言える。また、表の中の判別関数値欄からも分かるが、倒産群はプラスのZスコア、非倒産群はマイナスのZスコアが算出されるようになっている。ところが、上の式の経常収支率であるの係数を見ると、経常収支率が高ければ高いほど、マイナスのZスコアを算出する、即ちより非倒産群へと近付いてしまう。これについては後に検討する事とする。

先に進み、F検定の欄に移る。これは、「判別関数式の説明変数の平均値が全て等しい」ことを帰無仮説とした検定の結果である。F値はその検定統計量である。そしてP値が限りなく小さい時、帰無仮説を棄却して、「全ての平均値が等しいわけではない、よって群を判別できるため、この判別関数式には意味がある」となる。今回の結果を見ると、P値が0.0006と出ており限りなく小さい。よって、この判別関数式には意味があると言える。

マハラノビスの平方距離とは、倒産群の重心と非倒産群の重心間の平方距離である。これが、43.39711761である。

また誤判別率は0.05%と出ており、判別のパフォーマンスはとても良い。

判別関数値欄に移る。「真の群」とあるのはもともとこちらが与えた倒産・非倒産情報が並んでいるだけである。その横の「判別群」というのが、判別関数式に式を作る際に用いた銀行データを用いて、本当に「真の群」と同じ結果を出すかを見たものである。判別関数式に代入して算出された値、即ちZスコアが「関数値1」である。そして、判別境界値は「0」である。この値を境目に、よりマイナスならば非倒産群、よりプラスならば倒産群となる。これを基に関数値1を見てみると、各銀行のZスコアは真の群と同じである。よって、判別的中率は100%である。

また、この事はマハラノビス距離値を見ても判別できる。「マハラノビス1」が、各銀行から「倒産群」までの距離、「マハラノビス2」が、各銀行から「非倒産群」までの距離である。倒産した銀行は、確かにマハラノビス1の値が小さい、即ち倒産群に近い位置におり、非倒産の銀行はマハラノビス2の値が小さく非倒産群に近い位置にいる。

次に、相関比を見てみる。これは、1に近いほど各群の重なり具合が小さい、つまり各群が明らかに判別されうる事を示す。相関比は、因子平方和÷総平方和、という式から求まるが、詳しい説明は今回の研究の意図する所ではないので、省略する。分析の結果、相関比は0.9175と算出された。各群をきれいにグルーピング出来た様である。

判別得点(Zスコア)の分布表を描いたのが、以下の図3である。縦軸は銀行数、横軸はZスコアである。

 

図3:Zスコアの分布表(真の群)

 
                                     

                                                   
   

 

 

 

 

 

銀行数の違いはあるものの、均等に分散されて群分け出来ているようである。

それでは、この判別関数式を用いて、格付け対象銀行の財務データを代入し、格付けを行う。代入の結果、Zスコアは以下の通りに算出された。

 

表2:各行のZスコア
Zスコア
銀行名
27.38 
東京相和
26.97 
日債銀
倒産群銀行
24.32 
国民
24.22 
幸福
5.61 
長銀
-30.98 
静岡
-14.83 
中国
-21.37 
阿波
-18.76 
七十七
非倒産群銀行
-26.50 
伊予
-18.96 
山口
-15.47 
常陽
-23.58 
香川
-25.73 
八十二
-20.81 
岩手
-16.98 
東京三菱
-13.77 
三和
-16.60 
東海
-10.23 
第一勧業
都市銀行
-12.18 
住友
-13.61 
あさひ
-10.85 
富士
-6.40 
さくら
-1.20 
大和
長期信用銀行
0.39 
興銀
-2.12 
東日本
下位地方銀行
-0.23 
関西
-5.48 
泉州
-5.92 
仙台
2.06 
中部
倒産銀行
4.49 
新潟中央
-3.94 
なみはや
(資料)算出したZスコアを基に著者が作成。

参考までに、先ほどの真の群の分布表に対して、判別対象群のZスコアの分布表を描くと、以下の図4のようになる。

 

図4:Zスコアの分布表(判別対象群)
 
 
 
 
 
(資料)算出したZスコアを基に著者が作成。

 

判別境界値は、「0」である。その値より、マイナス方向へZスコアが増えているなら「非倒産」、プラス方向へZスコアが増えていれば「倒産」である。

すると、都市銀行では「倒産群」に属すると判定される銀行は無かったが、「さくら銀行」と「大和銀行」のZスコアは他の都市銀行に比べて、プラス方向(倒産群)へ相当寄っている。特に「大和銀行」は倒産群との境界に限りなく近く、安全行ではあるものの早急に解決すべき問題を抱えていると判断できる。また、長期信用銀行では「日本興業銀行(以下、興銀)」が僅かであるがZスコアがプラスの値を示す(倒産群に属する)という結果が算出された。下位地方銀行の「中部銀行」においても同様にZスコアがプラスの値を示し、その値は「興銀」のよりも若干強いようである。「関西銀行」「東日本銀行」も倒産群との境界に限りなく近く、警戒したほうが良い銀行であろう。また、「仙台銀行」「泉州銀行」の位置付けは「さくら銀行」とほぼ同レベルという結果が出た。

即ち、現在都市銀行の中でも、リストラクチャリングに代表される経営刷新に遅れていると言われる「さくら銀行」「大和銀行」は、総合指標による格付けによれば、経営状態の悪い最下位地方銀行と、レベルが同程度であると言える。また、長銀系2行が相次いで破綻、一時国有化された中、3行統合(第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行による共同持ち株会社)によって生き残りを図った唯一の長銀系「興銀」も、財務内容から総合判断する限り警戒すべき銀行であったと言える。その度合いはZスコア0.39という僅かなものであったが、1999820日に共同持ち株会社による統合発表を行うなど、自行に対する危機感を持っていたものと考えられる。

因みに、表2の「倒産銀行」と「非倒産銀行」のZスコアを見比べてみると、いかに経営状態・努力に違いがあったかが、この総合指標にあらわれたと言える。特に日本で最優良銀行と言われる「静岡銀行」に関しては、「東京三菱銀行」の2倍弱のZスコアを有している。その他の上位地方銀行もほぼ全てが、都市銀行のZスコアを大幅に上回っている。

また、1つ気になる点として倒産した「なみはや銀行」のZスコアが−3.94と、「大和銀行」の−1.20を大幅に上回っている。これは、判別関数式の精度の問題よりも「なみはや銀行」のリスク管理債権額報告に問題があったと言える。というのは、「なみはや銀行」はリスク管理債権額を相当過小に報告していたと考えられるのである。「金融再生委員会」のウェブページに、「金融再生委員会の議事概要・国会報告」という項目がある。その中の「破綻金融機関の処理のために講じた措置の内容等に関する報告(平成111210日 国会報告)」をたどると、平成1187日付の「なみはや銀行の検査結果について」というページが見つかる。これを見ると、リスク管理債権額はU分類・V分類・W分類の合計で「5566億円」存在する。一方、QUICKデータベースから調べた1999331日決算時点のリスク管理債権額は「約512億円」である。リスク管理債権額を10分の1以下に過小報告していたわけである。決算時点から破綻した87日までに5000億円不良債権が増えたとは考えにくいため、虚偽の報告を行っていたと言えよう。従って、判別関数式の「リスク管理債権比率」の係数は1.4676と説明力が相当大きいため、過小なリスク管理債権額を報告した「なみはや銀行」のZスコアは健全性を大きく示す事となってしまった。これを通じて、Zスコアは粉飾された財務データに大きく影響される事が分かった。同様に「新潟中央銀行」についても調べてみた。「新潟中央銀行の検査結果について」のページより、リスク管理債権額はU分類・V分類・W分類の合計で「3353億円」であった。一方QUICKデータベースから調べた1999331日決算時点のリスク管理債権額は「約851億円」であった。「新潟中央銀行」も過小報告をしていたわけだが、Zスコアでは倒産と判定できている。なぜであろうか。巻末の銀行財務データの付表を参照してもらいたい。「新潟中央銀行」は「なみはや銀行」と比較して、明らかにあらゆる指標が悪い。特に、判別関数式の説明力の大きい(係数の大きい)財務変数の値が悪いため、Zスコアに大きく影響したものと考えられる。両行に関して、「金融再生委員会」による検査結果に基づくリスク管理債権額を用いてリスク管理債権比率を再計算してみると、「なみはや銀行」は41.76%、「新潟中央銀行」は34.43%であった。それを基にZスコアを再計算してみると、「なみはや銀行」は51.71、「新潟中央銀行」は42.19と極めて高い値となり、「倒産群」に属する事が一目瞭然となった。多額の未処理不良債権が発覚して、債務超過に陥り破綻した事がうなずけよう。

以上より、銀行が正確な財務諸表およびそれに付随する財務データを提出するのならば、判別分析はその値を基に現在の正確な銀行の格付けを行う事ができる。その一方で、財務諸表が粉飾されている、もしくは特定の財務データに関して過小・過大などの虚偽報告をしている時は、当然の事ながら判別分析は誤った格付けを行う事になる。

 

5.2 Zスコアとムーディーズ格付けとの対比

次に都市銀行および長期信用銀行において、Zスコアを基に順序付けをしてみる。また、それをムーディーズの格付けと対比させてみる。ムーディーズでは銀行の安全性を測る格付けには大きく2つあり、1つは銀行の純粋な財務力を測る「銀行財務格付け」、もう1つは銀行の債務履行能力を測る「預金格付け」・「発行体格付け」である。前者は純粋な体力に対する格付けなのに対して、後者は経営危機の際、国や日銀の支援および破綻後の他行への営業譲渡や預金保険機構による預金保護等、あらゆる保護策を考慮した格付けである。日本の事情を考慮すると後者がより望ましいと考え、本稿ではその内の「預金格付け」、特に「長期預金債務格付け」を用いる。下記の表3を参照してもらいたい。

 

表3:各行のムーディーズ格付け(19991230日確認時点)
Zスコア
  ムーディーズ銀行格付け
東京三菱(-16.98) Aaa
東海(-16.60) Aa1
三和(-13.77) Aa2
あさひ(-13.61) Aa3 商工中金、静岡
住友(-12.18) A1 ↓農林中金、中国、七十七
富士(-10.85) A2 東京三菱、山口
一勧(-10.23) A3 三和、伊予、常陽
さくら(-6.40) A3 住友
大和(-1.20) Baa1 ↑富士
興銀(0.39) Baa1 ↑一勧
長銀(5.61) Baa1 ↑興銀
日債銀(26.97) Baa1 さくら
Baa1 ↓東海
Baa1 ↓あさひ
Baa2 ↑長銀
Baa2 日債銀、
Baa3 大和、
(注)表中の「↑」は引上げ見直し、「↓」は引下げ見直し検討中を示す。

    (資料)算出したZスコアおよびダイヤモンド社(1999a)、ムーディーズ

        ・ジャパン(20002月)をもとに著者作成。

 

格付けによれば、「東海銀行」と「あさひ銀行」が、Baa1から更に格下げへ見直しに入っている。しかし、判別分析のZスコアによれば、A2の「東京三菱銀行」、そしてA3の「三和銀行」に次ぐ堅調さをそれぞれ示していた。また、「日本興業銀行」はBaa1から格上げへ見直しに入っているものの、判別分析の結果は「大和銀行」よりも劣るZスコアを出した。また、「日本長期信用銀行(以下、長銀)」と「日本債権信用銀行(以下、日債銀)」のZスコアは、それぞれ5.6126.97と算出された。「大和銀行」のそれは−1.2であったわけだから、「大和銀行」の方が優良であるはずだが、ムーディーズの格付けでは、「大和銀行」のBaa3より優るBaa2を獲得していた。しかしそれは、現在長銀2行とも破綻、一時国有化されたために預金や金融債のリスクが大幅に低下した事と関係がある。現に、表中には列記していないが1998年時点での格付けを調べると、「大和銀行」「長銀」「日債銀」は同列「Baa3」の格付けであり、1997年時点では「大和銀行」「長銀」が同列「Baa1」で「日債銀」は「Baa3」であった。だがここで問題として、ムーディーズの格付けが長銀の倒産前年度である1997年において、「大和銀行」と「長銀」を同格に扱った事である。「長銀」は19981023日に破綻している。よって、1998年時点で「大和銀行」「長銀」が同格に扱われている点で問題がある上、1997年時点でも同格に扱い「長銀」の危険度を「大和銀行」より差別化して明確に表現できていない。勿論、先ほど述べたようにこの「長期預金債務格付け」は、「経営危機の際、国や日銀の支援および破綻後の他行への営業譲渡や預金保険機構による預金保護など、あらゆる保護策を考慮した格付け」である。よって、純粋な体力を測る「銀行財務格付け」に比べて何かしらの含みが入り、より高い格付けとなる事は想像され得る。しかし、それは「大和銀行」についても同じなわけであり、よって「大和銀行」との差異を明確に表現できなかった点はやはり問題であろう。また、現在特別公的管理下に置かれておりリスクが低下した事は確かであるが、「大和銀行」より格付けが上がってしまう事には疑問を抱く。財務内容的には、改善しているどころか、リスク管理債権額が新たに見つかるなどより問題が大きくなっている。

ここから判断すると、主観的・恣意的判断が伴うムーディーズ格付けよりも、システマティックに格付けを行う判別分析の方が精度は高いと言えないだろうか。

「日本興業銀行」はZスコア0.39であり「倒産群」と判別されたが、3行統合を発表し、株価が上昇して持ち直している。だからと言って、Zスコアの精度が低いとは結論しがたい。それは3行統合のタイミングが良かっただけであり、もしも3行統合に対して「富士銀行」「第一勧業銀行」が乗り気でなかったなら、「興銀」は既に倒産した長銀2行と同様に、破綻していたかも知れない。

 

5.3 Zスコアと株価との対比

次に、株価との比較を行ってみる。対象の銀行は前節同様に、都市銀行及び、長期信用銀行のみとする。株価データは東京証券取引所のものをQUICK端末から引き出した。株価は以下の通り。因みに、株価は各行が証券取引所にて決算短信発表(決算公告)を行った日のデータである。理由は、各行の本決算の内容が投資家に伝わるのは、漏洩が無ければ早くとも短信発表時点であり、その時点を境にして財務諸表の内容を含んだ株価となると判断したためである。Zスコアは財務諸表から算出されるため、本決算の財務諸表が加味された株価と比較する事が適切だと判断した。各行の短信発表時点は少々異なっており、「三和銀行」は1999520日、「第一勧業銀行」「さくら銀行」「東京三菱銀行」「富士銀行」「住友銀行」「東海銀行」「あさひ銀行」は521日、「興銀」は524日、そして「大和銀行」は525日である。しかし、短信発表を何時に行ったのかがここで問題となる。それは、もし発表が証券取引所の取引前もしくは取引中であれば、即日株価が感応するであろうが、取引後であれば翌日以降に株価に反映される事となる。何時に発表を行ったかまでは分からないため、短信発表の翌日の株価を用いる事にした。但し、1999521日の翌日は土曜日であり取引が行われていない。よって、521日に短信発表を行った各行については、翌週524日月曜日の株価を用いる事にする。

各行の株価およびZスコアを対比させた表は以下の通りである。

表4:各行の株価(1999年短信発表翌日時点の終値)
Zスコア
      株価
東京三菱(-16.98)
1581
東京三菱(5月24日)
東海(-16.60)
1487
住友銀行(5月24日)
三和(-13.77)
1235
三和銀行(5月21日)
あさひ(-13.61)
875
日本興業銀行(5月25日)
住友(-12.18)
852
第一勧業銀行(5月24日)
富士(-10.85)
810
富士銀行(5月24日)
一勧(-10.23)
696
東海銀行(5月24日)
さくら(-6.40)
576
あさひ銀行(5月24日)
大和(-1.20)
426
さくら銀行(5月24日)
興銀(0.39)
256
大和銀行(5月26日)
長銀(5.69)
日債銀(26.97)
(資料)算出したZスコアおよび株価データを基に著者作成。

 

先ほどの判別分析の結果と比べると、「東海銀行」「あさひ銀行」「興銀」の順序が異なり、興銀の株が相対的に買われている事がよく分かる。また、株価を表3のムーディーズの格付けと比較すると、「東海銀行」、「あさひ銀行」がBaa1から格下げ見直し、「さくら銀行」はBaa1に残留となっており、相対的には僅かに「さくら銀行」が評価され得る点があるようである。しかし、株価の序列から言えば、「さくら銀行」の株は「東海銀行」「あさひ銀行」を下回っている。また、大和銀行の終値が256円なので、株価を基に格付けをするのであれば、「大和銀行」と同じBaa3もしくは、一つ上のBaa2の格付けが適当だと考えられる。それは判別分析のZスコアからも、判断されうる。Zスコアを見ると、「さくら銀行」が−6.40、その前後は「第一勧業銀行」の−10.23、「大和銀行」の−1.20である。「さくら銀行」は「第一勧業銀行」とは開きが大きく、また株価も約半値であるが、「第一勧業銀行」の格付けは引上げ見直しを検討されているものの、「さくら銀行」と同じBaa1である。よって、どちらかの格付けを早急に変更する事を、再考するべきであると言える。また、「さくら銀行」は「大和銀行」ともZスコア、株価とも開きがあるため、Baa3の格付けは厳しすぎ適切ではない。Baa2が望ましいところではないだろうか。

 

5.4 Zスコアと株価ボラティリティとの対比

最後に、Zスコアと株価ボラティリティとの比較を行う。株価ボラティリティに関して詳細は、巻末の山口陽平氏の付論を参考にして頂きたい。付論によれば、山口陽平氏が算出した株価ボラティリティと齋藤啓幸氏によって推定された倒産確率には、非常に緊密な非線型の正相関関係がある事が分かった。ここから、株価ボラティリティの値を倒産確率の間接的指標として利用する事にした。算出された株価ボラティリティは、低い値であれば株価は安定的即ち銀行経営が安定的であると読み取れ、高い値であれば株価は不安定即ち銀行経営の先行きに何かしら不安定要因を抱えていると見る事ができる。よって、株価ボラティリティは銀行の健全性の指標に等しい。これを、今回行う独自の格付けと比較する。

算出した株価ボラティリティは、1999524日時点のものである。これは前節において触れたように、株価とZスコアを比較するにあたって決算短信発表翌日時点の株価が望ましいのと同様に、株価より計算される株価ボラティリティも短信発表翌日時点が適切だと判断した。「三和銀行」「興銀」「大和銀行」は短信発表時点が524日とは異なるものの、多くの都市銀行が短信発表を行った524日に統一した。

524日時点の株価ボラティリティのグラフは、付論の図5を参照して頂きたい。ここでは、株価ボラティリティのパーセンテージとZスコアを表にまとめ比較を行う。

 

表5:各行の株価ボラティリティ(1999524日時点)
Zスコア
株価ボラティリティ
東京三菱(-16.98)
31.92%
住友銀行
東海(-16.60)
34.96%
東京三菱銀行
三和(-13.77)
36.64%
三和銀行
あさひ(-13.61)
42.27%
東海銀行
住友(-12.18)
49.39%
第一勧業銀行
富士(-10.85)
52.91%
日本興業銀行
一勧(-10.23)
57.34%
あさひ銀行
さくら(-6.40)
57.50%
富士銀行
大和(-1.20)
57.71%
さくら銀行
興銀(0.39)
61.78%
大和銀行
長銀(5.69)
日債銀(26.97)
        (資料)算出したZスコアおよび山口氏の算出した株価

            ボラティリティを基に著者作成。

 

株価ボラティリティを眺めてみると、まず「住友銀行」が「東京三菱銀行」よりも株価が安定的である事が分かる。また、「東海銀行」もボラティリティは都市銀行の中では比較的安定的である。これは、Zスコアにおいても確認され得る。それに対して、「東海銀行」と合併が予定されている「あさひ銀行」は、Zスコアでは「住友銀行」よりも上の得点をマークしているが、ボラティリティでは「東海銀行」と比較しても大きく離されている。また「住友銀行」と合併を予定している「さくら銀行」では、Zスコア上では約半分の値、株価ボラティリティでは約2倍の値を示している。「大和銀行」は、Zスコア・ボラティリティともに芳しくない値を示している。「富士銀行」「第一勧業銀行」は若干Zスコア・ボラティリティが前後するが、「興銀」は大幅に違う結果を示している。Zスコアでは判別境界値である「0」を僅かではあるが倒産群の方へ超えており、「大和銀行」よりも悪い値を示している。それに対して、ボラティリティでは都市銀行・長期信用銀行全体で中位に位置している。

「興銀」「住友銀行」「あさひ銀行」に関してはZスコア、ボラティリティの間で大きな評価の食い違いが生じた。しかし、それ以外の銀行については若干の前後はあるものの、ほぼ同様の評価を示していると言えよう。

  



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