本論文を作成するにあたっては、丁寧で懇切なご指導をして下さった岡部光明教授および有益なコメントをして下さった研究会のメンバーに感謝したい。特に、異なるアプローチによって銀行の健全性評価を試み、本論文の巻末に付論という形で提供して下さった山口陽平氏(総合政策学部2年)のご協力に深く感謝したい。また、分析にあたって必要としたデータは、湘南藤沢キャンパス・メディアセンターの豊かなデータベース環境によって利用する事が可能であった。ここで改めて感謝したい。なお、本論文はインターネット上でも全文アクセス可能である。(URL: http://www.okabem.com/research/paper/index.html)
銀行の経営破綻が現実にみられる状況下、一般に銀行の健全性に対する関心が近年高まっている。このため、例えば銀行預金者にとっては、銀行の安全性に関する何らかの総合的指標があれば便利である。本稿では、そうした総合的指標のひとつの例を作成するとともに、その指標の妥当性を評価するために、類似した指標(格付けや株価の動向)と対比させて考察した。
総合的指標作成に当たり、本稿で利用したのは判別分析(Discriminant Analysis)という手法である。これは、(1)例えば既に倒産した銀行と健全な銀行の財務諸表を用いて、倒産群・非倒産群の指標となる判別関数式を作成する、(2)その式にこれから判別しようとする銀行の財務データを代入し、算出された値(判別関数式の合成変量であり、一般にZで表されるためZスコアと言われる)がある値以不の場合には倒産群、それ以下の場合には非倒産群にそれぞれ属する、と判断する手法である。
ここでは、判別関数式の説明変数として「自己資本比率」「ROA」「ROE代替指標」「経常収支率」「有価証券投資効率」「リスク管理債権比率」の6つを採用し、17の銀行を対象としてZスコアを算出した。それによれば、(1)Zスコアが示唆する健全性とその他の類似指標(ムーディーズの格付け、株価水準、株価ボラティリティ)が示唆するそれとは概ね一致する、(2)ただし、一部の銀行に付いては財務諸表のデータだけでは適切な結果が得られない(その原因としてはリスク管理債権額の過小表示による可能性が大きい)、との結果が得られた。この分析手法を他の手法ないし指標と対比した場合、やはり一長一短があり、それら各種の指標はそれぞれの特色に留意し用いる必要がある。判別関数式を現時点で用いる場合、なおいくつかの問題があり(倒産した銀行のサンプルの少なさ、採用説明変数の改善など)、これらの解決は今後の課題である。なお、株価ボラティリティをもとにした銀行の倒産確率推計は、付論を参照。
キーワード:判別分析、Zスコア、マハラノビス距離、判別関数式、ムーディーズ格付