円高下の産業構造調整

 

津田知佳 総合政策学部4年

 

岡部研究会研究報告書

1994年度秋学期

 

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概要

 1985年のプラザ合意以後,日本では対外経常黒字縮小やそのための構造調整を政策目標としている.しかし,対外経常黒字縮小とともに国内均衡をも保つことは言うまでもなく重要な課題である.この2つの政策目標のためには2つの政策が必要である.黒字縮小の政策の1つとしては円高を通じた産業構造調整である.すべての生産物を貿易財,非貿易財の2つに大別して考えた場合,円高化すれば貿易財の非貿易財に対する相対価格は低下し,逆に非貿易財の貿易財に対する相対価格は上昇する.よって,貿易財から非貿易財産業への資源のシフトがおこり(スイッチング効果),対外経常黒字縮小が可能になる.そして,このようなシフトにともなう労働需給のミス・マッチが起こる可能性が強いが,そうして発生する失業を吸収する政策として,総需要拡大(アブソープション拡大)が必要になる.このような2つの政策が十分機能することにより,対外および対内均衡維持という2つの政策目標は達成される.

 実際,日本における1985年から1989年,1990年以降の2つの時期についてスイッチングとアブソープション拡大政策がどのようになされたか,そしてその結果政策目標が達成されたか,検討した.その結果,1985年から1989年の期間では2つの政策は十分機能し,2つの政策目標は達成されたと判断される.しかし,1990年以降ではスイッチング機能がはたらかず,また,アブソープション拡大政策もその機能を十分に果たすことができなかった.1990年以降スイッチング機能が十分はたらかなかったのは1985年から1989年の期間におけるスイッチングに際しては,非貿易財の貿易財に対する相対価格が上昇したままの状態のままになり,非貿易財の需要がその後増加しなかったためであると考えられる.また、1985年以降,資源が非貿易財にシフトしたにもかかわらず,同部門の生産性はほとんど高まらなかった.今後,円高がより進むと考えられるとき,アブソープション政策とスイッチング政策のポリシーミックスを潤滑におこなうことができ,対外,対内両均衡を達成し得る環境も作るためには,非貿易財に於ける規制緩和政策に一層取り組んでいく必要がある.


目次

 

 はじめに

1 内外均衡達成の政策に関するモデル分析

 (1)国内総需要(アブソープション)政策とスイッチング政策

 (2)日本の場合

3 1985年以降の日本の政策

 (1)為替レート

 (2)財政政策・金融政策

3 実際のスイッチングとアブソープション

 (1)スイッチング効果

 (2)アブソープション拡大政策の効果

 (3)対外均衡の動向

 (4)問題点

4 むすび

  参考文献



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