企業リスクおよび地方政府リスクに関する実証分析

 
 
環境情報学部3年 大矢洋平
総合政策学部4年 堀江恵理子
 

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2007年度春学期(2007年8月改定)



 

本稿の作成にあたっては、日頃より丁寧かつ親切にご指導頂いている岡部光明教授(慶應義塾大学総合政策学部)に深く感謝の意を表したい。また、岡部光明研究会のメンバーには、日頃の研究会、共同研究室(κ201)、そして合宿(7月14、15日)における研究発表での数多くの議論を通じて、大変参考になる意見を頂き感謝している。なお、本稿はインターネット上においても全文アクセスおよびダウンロード可能である。(http://www.okabem.com/paper/) また、本稿に関するコメントや問題点等は、著者にご連絡いただきたい。
電子メールアドレス:大矢 t05208yo@sfc.keio.ac.jp、 堀江 s04776eh@sfc.keio.ac.jp

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概要

 組織体は、それが民間組織であるか公的組織であるかを問わず、その活動に関して様々なリスクを抱えている。そしてそうしたリスクは、組織体が外部に対してどのような情報をどのような形で開示するかによっても左右される面が少なくない。本稿は、企業および地方政府の2ケースを取り上げ、それらにおいて最近最も注目されている現象(企業の買収防衛策の開示、地方政府の財務状況とその開示)をこうした視点から実証的に分析したものである。

 まず第1部「企業の敵対的買収防衛策が株価に与える影響.ファイナンス理論の観点から.」では、最近急増している企業のM&Aを取り上げ、企業の買収防衛策が当該企業の株価にどのような影響を及ぼすのかを定量的に分析した。ここでは、まず買収防衛策を定義したあと、日本における買収防衛策の歴史・現状について概観し、買収防衛策を4つ類型(株主対策、株式対策、経営対策、その他)に分類して整理した。特に、日本で最も頻繁に利用されている事前警告型の買収防衛策 (買収者が現れた場合に買収者に対する情報開示ルールないしそれに応じない場合の買収防衛策の方法を事前に定めるもの)を詳細に記述した。次いで、敵対的買収防衛策がどの程度株価に影響を及ぼすのかを、CAR(累積異常収益率。株式収益率の期待株式収益率からの乖離幅の累積)を使用したイベントスタディによって実証分析した。その結果(1)買収防衛策は株価に負の影響を与えること、(2)買収防衛策は強ければ強いほど(防衛策の有効期限が長ければ長いほど)株価のより大きな低下を招くこと、(3)日本では買収防衛策が導入されてからまだ日が浅く、防衛策は投資家の不安感を煽る面が大きいと見られるために、上記2つの結果が得られたこと、が判明した。ただ、買収防衛策の企業価値への影響は多面的であり、さらに詳細な検討が必要である。

 第2部「地方債の現状と問題点.債務不履行リスクの観点から.」では、地方自治体の資金調達のうち市場公募地方債に焦点をあて、それを巡る近年の環境変化、発行体および投資家の行動などを債務不履行リスクの観点から分析を行った。まず重要な変化として、@2006年6月に夕張市が財政再建団体の申請をした後、地方債の対国債スプレッドの拡大が見られたこと、A同年8月より統一条件交渉方式(新発債の利回りを既発債の流通利回りに関わらず同等に設定する方式)から個別条件交渉方式(発行条件・発行額・振込み日等を、各発行団体がシ団と協議のうえ自主的に決定する方式)へ移行したことを指摘した。次いで発行制度の変化に伴う利回り面への影響、地方債の格付けと地方自治体の地方債発行行動との関係、信用リスクの問題(暗黙の政府保証の有無)を考察した。その結果、個別条件交渉方式採用後は、それ以前と比べ@流通利回りに即した応募者利回りの決定がなされるようになったこと、A利回りは発行体の財務状況をより適切に反映するとともに資金調達面での透明性も向上したこと、が判明した。さらにB地方債の債務不履行リスクについては、法的な政府保証の明記はないが自治体や投資家はそれを期待して行動する傾向にあることがわかった。以上を踏まえ、@地方自治体はその資金調達においては政府の介入すべき部分と市場原理を働かせるべき部分の双方が必要であること、A市場原理の導入においては自治体の積極的な情報開示が不可欠であり、そのための制度規定が必要であること、B自治体に自由度の高い財政運営を可能にするとともに金融商品としての地方債にも多様性が必要であること、を認めることを提言した。

キーワード: 事前警告型、異常累積リターン、イベントスタディ、地方債、信用リスク、対国債スプレッド
        

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