この投資信託は、@現状のCSRが抱える問題点、A高齢者層の投資に対する悪いイメージを抱いている点、という2つの問題点を解決するために組成したものである。1点目として、近年流行しているCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という概念においては、企業の事業活動の内、一部分でもCSR活動を行っていれば「社会的責任を果たしている」と考えられており、社会の厚生を効率的に最大化するには限定されたものになっている可能性がある。つまり、本来企業は主力事業に注力することを通じて「企業価値の最大化」のみを目標とすべきであるが、これとは別にCSR活動へ力を割いてしまうことで、社会に与えられる影響が限定的になっていることがある。当然、このようなCSRをベースに評価されたSRIファンドには改良の余地が残る。2点目は、高齢者層の投資に対するイメージが悪く、事実その層の人々が保有する多額の資産が投資へ十分に向けられていないという状況がある。実際にアンケート調査を行った結果、「今は株式投資を行っていないが、今後は行いたいと考えている人(全体の約46%)」が多く、また、この潜在的な投資家を株式市場に引き込むためには、「株式投資は金儲け、またはギャンブルである」という悪いイメージ(全体の80%)を払拭する必要があることがわかった。また、現存する投資信託の商品分類についてまとめを行なった。
このような状況において、問題点を解決し、新たな需要を発掘するため、本稿では社会的必要投資(SNI:Social Necessary Investment)という従来のSRIファンドよりも1歩進んだ新たな概念を構築し、これに基づく「お年玉ファンド」の組成を行った。このSNIとは、「日本社会にとって長期的に必要とされるだろう事業を主力とする企業に対して投資する」投資概念であり、それを定性・定量的に評価するための指標として後述する「LOVE」を利用したSNI指数というものを作成した。なお、ここで述べている「必要」とは単に「社会的な責任を果たすこと」に留まらず、「Looking(視認性:社会に対する十分な情報 公開)」「Originality(独自性:独自の技術開発を通じた知財戦略)」「Voluntary(社会貢献:ステークホルダーへの貢献・還元)」「Evaluation(企業分析:効率的かつ健全な経営)」という4つの概念を満たして始めて必要条件となるものと定義した。さらに、SNI投資促進のため、一般的な組成方法についても議論した。
このSNIという概念を導入することにより、企業は主力事業に注力して営利を追求することと、社会貢献という要請を同時に満たす土壌ができ、より良い影響を社会にもたらす可能性がある。また、この概念を利用した「お年玉ファンド」という商品を提示することで、投資を「孫が生きる次の日本社会をより良いものにするための投資である」という良いイメージに改め、潜在的な投資家を株式市場に引き込むための一助となる可能性がある。また、短期間(2006/12/1〜2007/1/5)ではあるがパフォーマンスの検討を行うと、お年玉ファンドの期待収益率は3.6%(年次換算)となり、TOPIXの期待収益率2.4%(年次換算)よりも高く、リスクあたりのリターンについて検討すると、より効率的であることが分かった。
キーワード:社会的必要投資(SNI)、LOVE、企業の社会的責任(CSR)、お年玉ファンド