少子高齢化社会の基本問題に関する研究

−出生率低下および国民健康保険運営−



総合政策学部3年 山本 巧
総合政策学部3年 黒須隆寿



岡部光明研究会研究報告書
2006年度秋学期(2007年2月改訂)




本稿作成にあたっては丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶應義塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。また、研究報告会議(2007年1月20日、21日)において有益な議論を交わすことのできた岡部研究会のメンバーにも感謝したい。
本論文はインターネット上においても全文アクセスおよびダウンロード可能である。(http://www.okabem.com/paper/
電子メールアドレス:山本s04928ty@sfc.keio.ac.jp、黒須s04276tk@sfc.keio.ac.jp

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概要

少子高齢化は、社会の様相を大きく変えつつある一方、既存の各種制度に抜本的な変革を迫っている。少子化の原因を深く理解するとともに、各種制度を少子高齢化社会に適合させてゆくことは喫緊の課題といえる。関連する問題は多岐にわたるが、本稿では日本における出生率の低下の原因、および国民健康保険の運営のあり方、の二つの問題に焦点を絞り、その基本的性格を明らかにするとともに望ましい政策提言を行なった。

第1部「出生率低下の原因について」では、日本において出生率が低下している原因についての分析・考察を行った。日本を人口学的に見た場合、2005年は二つの意味で画期的であった。二つとは、合計特殊出生率(以下出生率という)が過去最低を更新して1.25にまで低下したこと、そして日本全体の総人口も初の減少に転じたことである。政府はいくつかの対策を講じてきたが、出生率は一向に下げ止まらないでいる。それらの現状をふまえ、今一度少子化について考察する必要があると考えた。まず、日本における少子化の現状・歴史・問題点をまとめた。次に少子化の原因とされているものに関しての考察をした。具体的には、@未婚率の上昇、A晩婚化・晩産化、B正味婚姻数の減少についての考察である。完結出生児数(子供を生み終えたと考えられる夫婦の間にいる平均の子供の数)は最近まであまり変化がなく、非嫡出子の数が他の先進諸国に比べ極端に少ない日本においては結婚の有無や時期が少子化の大きな要因であることがわかった。分析では女性の社会進出・人工妊娠中絶がそれぞれ出生率低下の原因になっているかを検討した。女性の社会進出が出生率低下の原因であるという主張は必ずしも間違いとはいえないが、海外主要国の経験に照らせば、女性の働く環境を整えることで女性の社会進出がむしろ出生率向上につながることがわかった。また、避妊が普及していなかった時期は中絶が出生率低下に影響を与えていたものの、現在では中絶数と出生率の間には関係が見られないことがわかった。以上の結果から結論として@若者の雇用対策、A国民の意識・企業風土の改革、B非嫡出子の関係の法整備、C女性が働きやすい環境の整備、という4つの政策を提言した。

第2部「国民健康保険運営の効率化−保険者規模の広域化を中心に−」では、増加し続ける国民医療費に焦点を合わせ、医療保険の1つである国民健康保険(以下、国保)の仕組み、その財政状況、制度改革を論じる。国保とは、サラリーマン・公務員及びその扶養家族以外の者が加入している医療保険で、保険運営主体である保険者は市区町村である。今のままではさらなる保険財政の悪化が予想されるため、運営上の改革が求められている。その改革の1つとして、保険者規模の再検討がある。実際、厚生労働省は保険者規模について広域化を推進している。しかし、広域化は本当に効果があるのか、仮に効果があるとすればどのような効果があるのかはあまり論じられていない。そこで、本稿では、現状と問題点を明らかにしたうえで、国保の事務に注目し経済学的視点から広域化の可能性を探った。その結果、現状は@赤字保険者の割合が高くA1人当たり保険料に格差がある。そしてBこれらの問題は保険者の規模に起因することがわかった。そこで、保険者規模の広域化の効果を経済学的にみたところC被保険者数が多くなると、国保の事務費に規模の経済が働く。またD国保の事務は保険者の規模にかかわりなく国や県の負担、場合によっては一般会計からの繰入れを必要とするが、Eその負担の程度は大規模保険者であれば中小規模保険者より小さくて済み、広域化の効果はあらわれやすい(本文47ページの図8を参照)。以上のことから考えると、保険者規模が大規模に設定されたうえで広域化を行えば、少なくとも事務の面からは、国保運営の効率化に寄与すると結論づけた。



キーワード:合計特殊出生率 完結出生児数 女性の社会進出 国民健康保険 広域化 規模の経済
        
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