金融インフラストラクチャーに関する理論分析

‐プラットフォームとその効率性評価‐

 
 
総合政策学部4年 藤原史義
総合政策学部4年 千野剛司
 

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2005年度秋学期(2006年2月改訂)



 

本稿作成にあたっては、丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶應義塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。 また、研究報告会議(2006年1月14日,15日)において有益な議論を交わすことのできた岡部研究会のメンバーにも感謝したい。 なお、本論文はインターネット上においても全文アクセスおよびダウンロード可能である。 (http://www.okabem.com/paper/
電子メールアドレス:藤原 s02774ff@sfc.keio.ac.jp、 千野 s02553tc@sfc.keio.ac.jp

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概要

経済活動を的確に理解しようとすれば、市場メカニズムならびに政府によるマクロ経済政策という視点(ミクロ経済学ならびにマクロ経済学)からだけでは大きな限界がある。このため近年では経済活動を支える各種制度の分析が重要視されている。本稿は、金融取引に関する制度ないしインフラストラクチャーの一面を取り上げ、主として理論的観点から分析を加えたものである。

第1部では、情報通信産業で使われているプラットフォームという概念を金融、とくに主として決済業務に導入し、幾つかの分析を行った。プラットフォームとは「経済取引を仲介する役割ないしそのための物理的基盤」であると定義できる。例えば、ビデオゲームのハードウェア(プレーステーション)、電子マネー、クレジットカードなどがあげられる。ここではまず、プラットフォームという概念を一般的に定義するとともに特徴を述べた。ついで、金融分野における決済手段である電子マネー、クレジットカードを取り上げ、それらをプラットフォームという視点から分析した。さらに、プラットフォームの提供をビジネスとする企業をとりあげ、その相互間の競争をモデル分析するとともに、いま対立している2つの電子マネー(スイカとエディ)の考察をした。その結果、次のことが判明した。第1に、プラットフォームの機能は@取引相手の探索、A信用(情報)を媒介、B適正価格の形成、C産業基盤(インフラストラクチャー)の提供、Dプラットフォームを使用する産業の育成、である。 第2に、プラットフォームではネットワーク外部性(財のユーザーの数あるいはネットワークの規模からもたらされる便益)の存在がプラットフォームの特徴であり、また、プラットフォーム提供企業の戦略上重要である。第3に、競合状態にある2つの電子マネーは利用者(消費者と生産者)を増加させることが競争に勝つ重要な戦略であり、このため両陣営は利用者獲得のために多くのサービスを行っている(携帯電話への電子マネー機能の付加、加盟店の拡大、クレジットカード各社との提携など)。第4に、2つの電子マネーは相手の行うサービスによって利用者が取られる恐れがあるため、現状では両者とも同じサービスを提供するようになってきている。第5に、今後はプラットフォームが産業の発展に重要な位置を占めると考えられるため、国際競争力を持つ価値の高いプラットフォームの育成が日本の経済力を支えるために必要であり、そのため産業の規制見直しが必要である。

第2部では、資本市場を成立させる重要なインフラストラクチャーである証券取引所に焦点をあて、その組織形態のあり方を不完全契約理論を応用して分析した。一般的に、証券取引所には、@売買システムの運営を行っている「マーケット部門」と、A新規上場審査や上場企業の考査等を行っている「自主規制部門」という2つの異なった性質の部門が存在する。日本国内の大半の証券取引所が株式会社に移行することによって営利企業となった現在、証券取引所のモラルハザード(証券取引所が自己の利益を追求するあまり審査業務における基準を緩めてしまうという行為)が指摘されている。これを未然に防ぐため、自主規制部門を証券取引所本体から分離する案が検討されているが、そもそも証券市場並びに証券取引所の発展のためにはどのような組織形態が望ましいのだろうか。ここでは上記問題を経済学的に分析するために、不完全契約理論における所有権アプローチを援用して理論分析を行った。 不完全契約理論における所有権アプローチとは、将来起こりうる全ての事態に対応可能な契約(完全契約)を結ぶことができずに非効率性が発生してしまう場合、事前に資産の所有権を配分しておくことによって非効率性を改善しようとする考え方である。従来、このアプローチ(Buyer-Sellerモデルとして分析されてきた)は、考慮する資産として生産設備等の実物資産に限って考察されてきた。ここでは、このような所有権アプローチにおける仮定を批判的に検討し、従来モデルの拡張を試みた。その結果、@企業ないし組織が結合した後にその価値が毀損する可能性が高い人的資産を明示的に考慮する必要があること。A資産が独立な場合は資産がいかなる性質であろうとも非結合が好ましいこと、B資産が厳密に補完的な場合に望ましい順序は、(a)実物資産同士の場合、(b)実物資産と人的資産の統合、(c)人的資産同士の統合、であることが判明した。この結果、C企業同士の統合においては、資産の性質を考慮することが統合後の組織の発展のために必要であり、特に人的資産同士の統合は異なった風土・環境への適応を双方が強いられるために質物資産同士の統合に比べメリットが少ない、 といえる。この修正Buyer-Sellerモデルを証券取引所の企業形態に応用すれば、D自主管理部門の有する人的資産はマーケット部門の有する実物資産に対して相当適度補完的意味合いが強い、と理解できること。E自主規制部門はマーケット部門によって統合されること。Fしたがって、現状のように株式会社証券取引所の1部門であることが望ましいこと、との結論を得た。

キーワード: プラットフォーム、ネットワーク外部性、電子マネー、クレジットカード;
不完全契約理論、証券取引所、マーケット部門、管理規制部門
        

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