日本企業および公共投資の効率性に関する実証分析

 
 
総合政策学部4年 杉山貴昭
環境情報学部3年 村上淳也
 

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2004年度春学期(2004年8月改訂)



 

本稿作成に当たっては丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶應塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。また、研究会や共同研究室さらには研究報告会議(2004年7月10日、11日)において有益な議論を交わすことのできた岡部研究会のメンバーにも感謝した。  本論文はインターネット上(http://www.okabem.com/paper/)においても全文アクセス及びダウンロード可能である。 電子メールアドレス:杉山 s01482ts@sfc.keio.ac.jp、 村上 t02911jm@sfc.keio.ac.jp

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概要

概要  日本経済がここ13-14年にもわたって停滞基調を続けてきたのは、民間部門および公共部門の双方において、その仕組みや行動様式が各種の条件変化に適応できていなかったことによる面が大きいと考えられる。本稿はそうした問題意識から二つの側面、すなわち日本企業のガバナンス構造、および公共投資を取り上げて実証分析を行い、それらを効率性という視点から評価することを試みたものである。  まず第1部では、日本企業の統治構造を経営効率性の観点から評価するため、一連の計量経済学的分析を行った。バブル崩壊以降とくに90年代後半になると、日本企業では不祥事の続発、国際的競争力後退などの現象が目立ち、その要因が企業統治(コーポレート・ガバナンス)のあり方に求められるようになった。つまり企業経営が適切に規律付けられていないために経営の再構築(リストラクチャリング)が進まず、その結果、業績の回復も滞ってきたとされてきた。そこで、第1部では企業のガバナンス構造(株式保有構成、負債構造、メインバンク関係)が日本企業の経営の効率性にどのように影響を与えていたのか、またそうした影響力は企業が置かれた状況(とくに財務危機に陥っているかどうか)に依存するのかどうかを分析した。具体的には、電機産業(一部上場企業約79社)と建設業(同約63社)につき95年度から99年度までのデータを用いて経営効率性(付加価値/総資産)の要因をそれぞれパネル分析した。その結果、(1)企業のガバナンス構造は明らかに経営の効率性に影響を与えるが、その効果は業種によって異なる、(2)対外競争に直面していた電機産業では、その株式が上位10大法人あるいは外国人投資家によって保有される場合には株式保有者のモニタリング活動を通じて経営の効率性に正の影響を与えている、一方(3)競争が国内に限定された建設業では、上位10大法人・外国人投資家は企業の効率性を高める効果を持たない、(4)資金調達面で負債比率や市場調達型負債比率が高い場合、理論的予想(それらは正の経営規律付け効果を持つ)とは逆に両産業とも負の影響を与えている、(5)メインバンクは、平常時であれ財務危機時であれ企業経営の効率性に対して負の影響を与えている(非効率企業へ追い貸しをしている可能性がある)、などが判明した。以上の結果を踏まえると、日本企業の経営の効率性を高めるためには、規制緩和による国内での企業間競争の促進、投資家によるモニタリングを促すための企業情報開示制度の充実、などが必要である。  次いで第2部では、公共投資(具体的には新幹線建設)を取り上げ、プロジェクト評価において標準的手法とされる費用便益法を適用することによってその評価を行った。いわゆる整備新幹線(1970年の新幹線整備法に基づいて建設される新幹線)の建設遂行については、その是非をめぐって政治的要因が不可避的に絡まざるを得ない。しかし、交通投資のような大規模な公共プロジェクトは、民間プロジェクトとは異なり、本来社会全体にとっての利益と費用という視点からの評価を判断の基礎とする必要がある。つまり費用便益分析を適用して評価できる部分が大きい。第2部では、まず整備新幹線計画が策定された背景、現在のプロジェクト実施状況、財源問題等を整理し、次いで費用便益法による分析を行った。費用便益法とは、投資費用、そして投資プロジェクトが将来に亘ってもたらす便益、というフロー(各年における金額の流列)をそれぞれ現在価値に割り引いた値を求め、その差額すなわち純現在価値(net present value、NPV)をみることによってプロジェクトを評価する手法である。具体的には、北陸新幹線(東京―長野間)、北海道・東北新幹線(東京―札幌間)の二つのケースにこれを適用するとともに、得られた分析結果が諸条件の変化によってどの様に変化するのかの検討(感度分析)も行った。その結果、(1)当該プロジェクトの費用および便益の流列パターンのいかん(それぞれが比較的前倒しパターンなのか否か)によって各プロジェクトのNPVは相当異なったものになる、(2)建設期間(着工から供与までの期間)を短縮化する場合、北陸新幹線はそれによってNPVが上がる一方、北海道新幹線は逆にNPVが下がる、(3)輸送需要の大幅増大を予想しがたい現状では、いずれのケースともNPVがマイナスになる可能性が大きい、(4)航空のシェアが高い区間(北海道新幹線)では新幹線建設に伴う便益(所要時間・運賃・旅客快適性等の交通サービス変数を金額換算したもの)の上昇が比較的小さいので、様々な感度分析をしてもNPVがプラスに転じる可能性は極めて低い、等が判明した。これらの結果を踏まえると(5)早期開業を目指して建設を前倒しする動きがあるケースについては、それらの間で優先順位をつけ早期開業の効果が比較的大きいケースを優先させるべきである、(6)新幹線開業後の乗車時間が長い(4時間を超える)ケースでは、航空機の優位性が維持される可能性が大きいので、工事凍結を検討すべきである、といえる。

キーワード: コーポレート・ガバナンス、状態依存型ガバナンス、追い貸し、パネル分析、整備新幹線、ストック効果、
        費用便益法、純現在価値(NPV)
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