職務発明制度に関する理論分析
法律論・ゲーム理論・契約理論の視点から
千野 剛司
総合政策学部3年
岡部研究プロジェクト研究報告書
2004年度春学期(2004年8月改訂)
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概要
概要
企業等の組織において従業者が職務遂行中に発明を行った場合、その発明(職務発明)による特許権は発明者である「従業者」に帰属するのか、それとも「使用者」である企業等に帰属すると理解すべきなのか。これをどう考え、制度的にどのような対応枠組みを持つかは、従業員および企業にとってはもとより、社会全体の技術革新の動向をも左右する問題である。本稿は、この問題をまず我が国の現行特許法に則して議論し、次いで近年発展が目覚しいゲーム理論および契約理論を用いて、理論的分析を行ったものである。
我が国の現行特許法では、職務発明は従業者がそれに対する対価(「相当な対価」)を使用者から得ることによって、特許権を従業者から使用者に継承させる制度を採用している。しかし、この「相当な対価」に関しては、具体的な算出方法が規定されていないばかりか、両者が納得できる対価額が算出しにくいため、それが両者に対して発明へのインセンティブを低下させる可能性が大きい、との議論がみられる。
そこでこれを経済学的に考察するため、職務発明に対して「相当な対価」を用いて対応がなされる場合とそうでない場合では発明活動にどのような差異が生じるかについて、先ずゲーム理論(プリンシパル・エージェントモデル)を援用して分析した。その結果、@「相当の対価」によって対応する職務発明制度は、使用者・従業者の双方にとって不確実性が大きいため社会的に望ましい水準の発明がなされない可能性が多分にあること、一方A「相当な対価」を用いない場合、一定の条件の下では(すなわち発明に対する対価が、従業員が行う努力より大きく、企業が研究基盤を海外に移転させる際にかかる費用よりも小さい場合には)社会的に望ましい均衡解が存在すること、したがってB今後、我が国の政策当局は「相当な対価」を用いない職務発明制度に改革していく必要性があること(その際には米国等の職務発明制度が参考になること)、を指摘した。
次に、発明においては研究施設等の利用が不可欠であるので、そうした実物資産を誰が所有するかの違いによって、使用者の研究開発活動への投資水準と従業者の発明に対する努力水準がどのように変化するのかを契約理論を用いて分析した。その結果、使用者が実物資産を保有している場合の職務発明では、一般に使用者・従業者とも望ましい投資・努力水準は達成できないが、使用者が研究開発を行う際に、長期に渡って同一の研究を行い、かつ、一度行った投資をできるだけ再利用可能な状態にしておくならば、使用者は最適な水準の投資を行うことを示した。加えて、実物資産を従業者が保有する場合には、従業者の努力水準が最適な値になることを示した。職務発明とは多少論点が異なるが、これら一連の結論は、企業と大学等の研究機関が共同研究開発を行うことの妥当性を理論的に支持しており、今後そうした共同研究が活発化することが望ましい。
キーワード:特許法、「相当な対価」、プリンシパル・エージェントモデル、
契約理論、コースの定理
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