日本の金融システムはどう変質しつつあるか?

‐メインバンク制ならびに市場型間接金融の実証的検討‐

 
 
総合政策学部4年 藤井 恵
総合政策学部4年 光安孝将
 

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2004年度秋学期(2005年2月改訂)



 

本稿作成にあたっては、丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶應義塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。 第1部については、緑川清春氏(綜通株式会社)にお願いしてご自身が金融学会で報告された本稿に関連の深い論文を郵送して頂いた。 第2部については、藤原史義氏(慶應義塾大学総合政策学部3年)から参考になるご意見を頂いた。 また岡部研究会の研究報告会議(2005年1月15日、16日)においても研究会メンバーと有益な議論を交わすことができた。 これらの方々に感謝したい。なお、本論文はインターネット上 (http://www.okabem.com/paper/) においても全文アクセス及びダウンロード可能である。
電子メールアドレス:藤井 s01765kf@sfc.keio.ac.jp、 光安 s01880tm@sfc.keio.ac.jp

全文ダウンロード(PDF形式)


概要

日本では、これまでメインバンク制と称されるひとつの金融のシステムが、企業の資金調達面だけでなくコーポレートガバナンス(企業の規律付け)のあり方をも特徴づけてきた。 ところが近年、メインバンク制はすでに崩壊したとする論調も少なくない。もしそれが事実であれば、メインバンクによる企業規律付け機能も消失していることになる。 一方、日本にとって将来のあるべき金融システムとして「市場型間接金融」が頻繁に主張されるが、そうしたシステムへの移行がなぜ必要とされるのであろうか。 本稿は、変革期にある日本の金融システムにとって二つの重要な側面(メインバンク制および市場型間接金融)を取り上げ、それぞれに関して実証的ないし理論的検討を加えたものである。

第1部では、日本型コーポレート・ガバナンスを特徴づけるメインバンク行動に焦点をあて、その近年における動向を概観するとともに、メインバンクによる企業経営介入確率に関する実証分析を行った。 具体的には5業種(電気・化学・建設・機械・鉄鋼)の全国一部上場企業のうち、1990年?1997年の間に財務危機に陥った企業(2期連続営業利益赤字企業、合計74社)をサンプルとし、メインバンクの貸出行動とそれが企業経営に引き起こした変化を定量的に検討した。 その結果、次の諸点が判明した。まず@企業が財務危機に直面した場合、メインバンクは短期的には倒産を回避させるべく緊急融資など貸出増加で対応する場合が多いこと、A財務危機の際にメインバンクが介入する可能性は、企業のメインバンクへの借入依存度が高いほど、そしてメインバンクによる持株比率が高いほど、それぞれ高くなること、である。 一方Bメインバンクからの役員派遣をもってメインバンクによる経営介入と定義した場合には、財務危機企業に対するメインバンクの経営介入の頻度は低いこと、Cメインバンク持株比率は比較的長期的視点から決められるため極めて安定的であり、企業の短期的な財務危機がこれに与える影響はほとんどないこと、なども同時に明らかになった。 これらを総合的に判断すると、メインバンク関係を通じる企業ガバナンスの態様は、従来以上に多様化し変質してきている可能性がある(例えば追い貸しの結果としての企業経営の効率化阻害など)。それを前提にすれば、今後は企業モニタリング機能強化のための諸施策(とくに資本市場からの圧力強化)を拡充していくことが必要である。

第2部では、市場型間接金融が主張される理論的根拠とそこにおける主力金融手法の機能を分析した。 日本の金融システムの将来のあるべき姿として、従来から「間接金融(indirect finance)から直接金融(direct finance)へ」の移行を主張する向きが多い。 しかし、それは余りに単純かつ非現実的な方向であるとして、近年は「市場型間接金融」(intermediated market transactions)に移行すべきであるとの主張が次第に支持を得つつある。 ここでは、まず市場型間接金融を定義し、次いでその金融方式の機能を理論的に分析した。 その結果、それは@投資機会発見のために異なる主体によって複数回のプロジェクトの評価が可能であること、 A銀行部門に集中しているリスクをより広く分散できること、B様々な金融商品が組成されやすいシステムであること、C市場価格の情報伝達機能が十分に利用できること、 D資金仲介と資産流動化の関係が密接であること、などの特徴を持っており、この点が従来の単純な間接金融にはない「市場型」間接金融の優れた特徴であることが明らかになった。 続いて、市場型間接金融における代表的な金融手法である証券化(特に銀行による貸出資産の証券化)と投資ファンドを取り上げ、両者の比較分析を行った。証券化とは、一般に経済主体の有する資産を切り離し、それを裏付けとした証券を発行することで資金調達を行う金融技術である。 また投資ファンドとは、投資家から集めた資金をプールし、設立して間もない成長企業に出資する仕組みのことである。両者はともに資本市場を通じて投資家から企業へ資金を融通させる(市場取引に立脚している)点で共通する一方、リスク配分のパターンなど機能については対極的な面も多い(53ページの表6を参照)。 そして、この2つが近年同時に成長してきている現状を理解するため、リスクとガバナンスに注目して比較分析を行ったところ、両者は機能補完関係にあること、両者が存在することによってリスクおよびガバナンスが適切な主体へ配分されることが判明した。これを前提にすれば、現在進みつつある市場型間接金融への動きは望ましい方向であると判断できる。

キーワード: メインバンク、企業ガバナンス機能、市場型間接金融、証券化、投資ファンド
        

  • 目次
  • 本文(PDF形式)


  • 岡部光明教授のホームページ
    SFCのホームページ