日本資本主義の地域構造  

―人類学的下部構造からみた生産と消費―

 

遠藤 倫生

総合政策学部2年  

岡部光明研究会研究報告 2003年度春学期(2003年9月改訂)

 

本稿は次のウェブサイトからもダウンロードできる: 

http://web.sfc.keio.ac.jp/~s01154me/tp03sp-2.pdf

著者Eメールアドレス: s01154me@sfc.keio.ac.jp

 

 

概 要

 

  日本の資本主義制度について、従来の経済学や社会学では、「日本の全体として制度化された資本主義」として一元的に論じられることが多かった。しかし日本国内においても、性格の大きく異なる社会制度が併存しており、経済面においてもそれら相互間の関係が重要な意味を持っている。本稿は日本の資本主義制度の内部における多様性を明らかにすることを意図している。具体的には、トッド(1992,1993)が欧州について行った分析を援用し、日本における家族を理解するうえで(a)親子関係(個人を集団に結び付ける力あるいは自由主義的関係の程度)、(b)兄弟関係(遺産分配に典型的にみられる平等性の程度)という二つの基準を導入し、それをもとに(1)完全直系家族、(2)不完全直系家族、(3)平等主義的核家族、(4)絶対核家族の四つの家族類型を設定した。そして日本各地域の家族制度に関して従来の諸研究から明らかになっている地域ごとの人類学的な差異を日本全土(10の地域に区分)に適用し、家族類型の上に「社会的統合力の差異」(25ページの図7)から派生する二つの資本主義の類型を想定した。その一つは、継続性と教育を重んじ、過剰生産を特徴とする「直系家族型資本主義」であり、もう一つは個人の移動の自由と消費に重きを置き、生産が比較的少ない「個人主義的資本主義」である。これらに特徴的な点をセンサス・マッピングの手法によって地図上に表してみると、(1)家族制度を下部構造とする二つの資本主義が日本の産業化の過程で相互依存的に発達したこと(域際収支の時系列変化がこれを示唆している)、(2)家族の類型が政治イデオロギーと政党支持のパターンに密接に結びついていること、が判明した。従って、人間社会の機能と多様性を理解するためには、単に経済法則と意識的合理性を想定するだけでは不十分であり、人間は多元的な価値を持つことを積極的に考慮する必要があることを結論づけた。

 

 キーワード: 核家族  直系家族  社会的統合力  域際収支




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