福元 千佳 総合政策学部3年
岡部研究プロジェクト研究報告書
2002年度春学期(2002年9月改訂)
本論文作成にあたっては、丁寧で親切なご指導をして下さった岡部光明教授ならびに忙しい合間の中コメントを下さった竹中平蔵総合政策学部客員教授(国務大臣経済財政政策担当)に深く感謝したい。本論文はインターネット上(http://www.okabem.com/paper/)においても全文アクセス可能である。
著者の電子メールアドレス: s99831cf@sfc.keio.ac.jp
日本では少子・高齢化が着実に進展しつつあり、このため将来の働き手の減少、あるいはそれに伴う公的年金制度の破綻などが懸念されている。こうした問題を解決するには、労働力化比率が比較的低い女性の就業を促進することが一つの有力な対応策とされている。本稿では、日本における女性就業の特徴を指摘するとともに、その背後にある制度の説明ならびに諸要因の定量的な分析を行い、それを踏まえて女性の就業率向上のために幾つかの政策提言を行った。
わが国における女性の就業状況をみると、学校卒業後に就職したあと、出産と育児の時期には就業を一時中断し、育児の役目がある程度終了した段階で再び就業するというパターン(いわゆるM字型就業パターン)が従来からの大きな特徴である。一方、女性が幼児(6歳未満の子供)を抱えている場合、就業を容易にする一つの方法は保育所の利用である。現に保育サービスに対するニーズはこのところ量と質の両面から高まっており、都市部においては多数の入所待機児童が発生しているうえ、特別保育(低年齢児保育、夜間保育、早朝保育など)のニーズも大きい。また、育児休業制度も女性の就業を容易化するが、その普及においては未だ企業規模のいかんなどにより格差が少なくない。本稿では、これらの事情を考慮にいれつつ女性の労働供給関数を計測した。具体的には、「6歳未満の子供を持つ女性」の就業率を被説明変数とし、これを所得、保育サービス、家族属性、マクロ経済動向で説明する回帰式を計測した。その結果(1)保育サービス(保育所在籍率)の上昇は子供を持つ女性の就業率に正の効果を持つこと、(2)夫の所得ないし家計所得は女性の就業率に負の効果を持つこと、(3)三世代同居(祖父母による保育サービス供給)、自営業率、有効求人倍率はいずれも正の効果を持つこと、などの結果が得られた。これらのうち(1)を踏まえると、女性の就業率を引き上げるには、児童福祉サービスの充実が必要であることが分かる。すなわち、すでに対応されている児童福祉法の改正(1997年)による保育所運営に関する規制緩和はそれに資するものと評価できる。また今後は、多様化する保育ニーズへの対応(ファミリーサポートセンターや地域子育てセンターを通じたサービスの質的充実)、育児休業制度の拡充などが課題である。
【キーワード】 少子・高齢化、女性労働供給、保育需要、保育サービス供給、児童福祉政策