鈴木 卓実 総合政策学部4年
岡部研究プロジェクト研究報告書
2002年度秋学期(2003年2月改訂)
本稿の作成にあたって,多年にわたり丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明総合政策学部教授に深く感謝したい.また岡部研究会のメンバーには,研究会や共同研究室での議論において,率直かつ有益なコメントをしていただき感謝している.
本稿はインターネット上(http://www.okabem.com/paper/)においても全文アクセスおよびダウンロード可能である.本稿の関するコメントや問題点等は,下記までご連絡いただきたい.
なお、本論文はインターネット上においても全文アクセス可能である。
著者の電子メールアドレス: s99468ts@sfc.keio.ac.jp
経済発展は,貯蓄あるいは資金がどれだけ十分かつ効率的に生産的投資に誘導されるか,そして様々なリスクが各種経済主体にどのようにして合理的に分配されるかに大きく依存している.このため,そうした機能をつかさどる金融システムの全般的な規模や活動度合い(いわゆる金融深化)ないし金融システムのあり方は,一国の経済発展と密接に関連する.本稿は,金融深化と経済発展の関係,および金融制度と経済発展の関係につき,これまでになされた実証研究を批判的に検討するとともに,新たな視点および手法を採用して世界多数国(74ヶ国)のデータに基づき実証研究を行ったものである.
従来の実証研究では,(1)計測対象国の経済規模が考慮されていない,(2)金融制度を「銀行型」と「市場型」の2類型でとらえ,その中間型を明示的に考慮していない,という点に問題があった.本稿では,実証分析する際,これら2つの問題に対処するため,(a)回帰分析に際しては通常最小二乗法(Ordinary Least Squares)の誤差項にウェイト付けをする加重最小二乗法(Weighted Least Squares)を用いる,(b)各国の金融制度の違いの程度を主成分分析(Principal Component Analysis)によって求める,という従来にない手法で対処した.
その結果,次の4点が判明した.すなわち,(1)上記(a)を用いれば従来の手法よりも当てはまりが改善する一方,(b)によって金融制度の差異が導けること,(2)金融部門の深化が進んでいる国ほど所得水準が高いこと,(3)銀行型か市場型のどちらかに特化している場合の方がそうでない場合よりも所得水準が高いこと,(4)平均的には市場型に特化するよりも銀行型に特化した国の所得水準がより高いこと,である.このうち,(2)は先行研究の結果を追認するものである一方,(3)および(4)の結果(20ページ,図1)は従来着目ないし実証されたことのない関係である.金融制度に特化の利益があるという結果が得られたのは,特化することによってその金融分野での金融技術の進歩が促進されることによるためと推測される.日本の金融制度は,銀行型から市場型ないし混合型へ移行すべしとする議論が現在主流になっているが,上記の実証研究や制度補完性(金融システム・雇用制度・企業関係などは相互に補完する存在であること)を考えると,各種コストの大きい制度改革よりも,むしろ銀行システムの健全化によって銀行型に特化する利益を享受できる可能性がある.
【キーワード】 金融深化,金融制度の二類型,加重最小二乗法,主成分分析,制度補完性